多焦点眼内レンズはいつか保険収載されるのか? by A

 多焦点IOLは昨年の7月より評価療養となって「一応」保険収載されていますが、いわゆる混合診療に該当するため、患者さんは保険の負担金とは別に3〜50万円もの自己負担金を請求されます(一眼あたり)。大学病院などでは患者さんから自費の代金をいただく制度がないところも多く(このこと自体大いなる驚きですが)、なかなかこのレンズを導入できないようです。といいますのも、評価療養として申請する条件に、当レンズを自費(あるいは無保険で)15例経験すべしと定められているからです。

 厚生省のホームページを見ると、この申請をしている施設は今のところ全国で20ほどしかなく、しかも大多数は開業医で大学病院はたった二か所というありさま。全国の医療機関にほぼまんべんなく広がりを見せ、症例数もかなり増えなければなりませんので、少なくとも来年の4月の保険改定で多焦点IOLが正式収載される可能性はほとんどありません。

 多焦点IOL移植は通常の白内障手術の延長上にあるとはいえ、コンセプトはかなり違います。欧米ではこれを「老眼治療」ととらえる傾向が強いようです。老眼を克服するということは、医学的のみならず社会的にも大きなインパクトがあります。しかし、通常の白内障手術にもまた別の良さがあるのです。たとえば、緑内障や糖尿病などで視力が低下しており、さらに白内障による障害が重なっている場合、多焦点IOLは適応にはなりませんが、通常の単焦点IOLはよい適応です。とにかくよい(矯正)視力を出したいという眼科医の昔からの取り組みには、どちらかというと単焦点IOLのほうが適しているのです。

 多焦点IOLはプラスαの機能を求めるものであり、対象は老眼(と軽い白内障)以外には異常を認めない、いわば健康な眼ということになります。近視手術が対象からはずれていることを思うと、これが本当に保険収載されるべきかどうか、議論もあることでしょう。私はこの手術に関する限り、今のままの混合診療で行くのが公正ではないかと思います。少なくとも、これまでの白内障手術の点数を下げる代わりに保険収載されるといった愚が犯されることのないよう、注意して見守りたいと思います。