看護師の教育について by A

昨日のB先生の記事の質問欄の続きです。看護師に限らず、薬剤師、検査技師などなど、医師以外の医療スタッフ全般のお話になります。

たとえば大学病院で、看護師は注射をしません(少なくとも私が大学に居た20年前はそうでした、今は多分、悪化こそすれ改善はされていないでしょう)。毎朝、夕の点滴注射は研修医の仕事でした。検査のための採血はしてくれましたが、そのうちこれもしなくなりました。

では、大学のナース(看護師)は何をしているのかというと、会議をしています。正確には「申し送り」といって、一日を8時間ごとに分けて三交代制ですから、お昼から準夜帯(16〜0)、準夜から深夜(0〜8)、深夜からお昼(8〜16)と人員が交代するたびに、一時間くらいはかかる会議と、そのために必要な看護記録の作成が主たる業務です。少なくとも、医師側から見ている限り・・。

「見回り」といって入院患者の様子を見に行くこと、定期的に入浴させること、時間通りに経口薬を届けること、手術室や検査室に患者を連れて行くこと、検尿ビンを確認することなど、看護師の仕事は他にもありますが、どれもたとえば、そのへんのおばちゃんでも出来るようなことばかりです。これでは、4年制の大学まで出て取った資格が泣くというものです。

大きな病院では何故こうなってしまうのかというと、薬の種類を決めたり、手術や処置を行ったりといった医療行為は医師にしか許されていないため、どうしてもその「手伝い」を行わざるを得ないのですが、それでは、大学病院ナースのプライドが許さないからと想像しています。

出来る行為の範囲が狭められていることが原因で、これは、医師の側にも大いに責任があります。たとえば、救急車に乗る救命救急師がのどに管を通す(挿管)ことが出来ないのは、ほかならぬ救急医や麻酔医が反対するからです。医者は医療行為を自分だけのものとして、パラメディカルに委ねることをしない傾向にあります。これでは、大きな病院の医療レベルはいつまでたっても改善しません。

われわれのような眼科手術開業医では、多くの場合、医師は独りでたくさんの白内障手術を行います。そのため、手術の助手、器械出し(いわゆる直介)、術前の検査、採血、術後の点滴、術前の患者説明、術後の検査、患者状態の確認、投薬などなど、看護師の仕事は多岐にわたり、そのほとんどが、大病院では医師が行っている類のものです。

長く勤めていると、あたかも優秀な眼科研修医のように、自分の頭で治療方針の見通しができる専門ナースとなってきます。こうなると、患者さんに対する説明でも、マニュアル通りということはありません。患者さんのご希望、容態に合わせた説明や方針の変更が出来るようになり、患者さんからも喜ばれることとなります。これが医療スタッフとしてのプライドを育て、ますます進歩していく好循環が生まれます。年々大学病院ナースとは差が開いて行きます。

私の経験から言えることは、医者が医療行為を自分だけのものとすればするほど、自ら墓穴を掘るかのように、しんどくなり、医療レベルも低下します。逆に、周りのスタッフにゆだねる部分を多くするほど、結果的にはレベルの高いクリニックになっていきます。

いつも参考にするアメリカでは、看護師が麻酔をかけ、州によってはphysician assistant (PA)という非医師が手術の一部を手伝い、オプトメトリスト(眼鏡師)がCLの処方はもちろんのこと、点眼薬の処方まで行っています。

どこまで医師の裁量権とし、どこまでをパラメディカルにゆだねるかの線引きは難しい問題を孕んでいますが、少なくとも、医療現場で最も都合がよいようにフレキシブルに考えたらどうでしょうか。「医師法によれば・・・」と、あらゆる医療を医師のみに限定しようとする考えは、医師の思い上がりであるとともに行政の責任放棄であり、結局は自らの首を絞めることになると思います。