公立病院の窮状について by B

毎週金曜日は地元の市民病院で午前中のみ診療を担当しております。いつもは午前診終了後、出身大学のサテライトクリニックでLASIKなど屈折矯正手術の修行に行っていますが、今日は角膜カンファレンスという学会があるので、お休みです。という訳で久々にゆっくりとした金曜の午後を過ごしています。

このように、開業医でありながら、他のクリニックに行って勉強など出来るのは、喧嘩を良くするとは言え、親父と2人でやっている恩恵です。(感謝しております)

さて、地元公立病院での外来診療ですが、この3月一杯で辞めることにしました。その一番大きな理由は自分のクリニックに専念したいからですが、それだけではありません。

自分のクリニックでの設備に比べて、医療機器が古く、

「あ〜、この患者さん、うちに来たら、もっと良い医療を提供できるのにな〜」

と思う事はしょっちゅうです。だからこれまで何人にも自分のクリニックに来て下さいというお話をしました。コメディカルスタッフは良い人ばかりなので、目をつぶってくれますが、何となく我田引水のようで後味が悪かったのです。

当然、患者さんは大きい病院の方が良い病院だという「大病院志向」の方が多く、「なんで、わざわざ開業医にいかなあかんねん。」と怪訝そうな顔をされる方もおられます。そこは空気を読みながら、今まで2年間やってきたわけです。


私の通っていた公立病院は今年度8億円の赤字見込み。院内の職員には、しばしば院長の悲痛な激励メールが送られてきます。

最近よく、公立病院の窮状がマスコミにも取り上げられますが、どこの病院でも似た状況ではないかと思われます。

世間一般では「医師=金持ち」というイメージがありますが、となると、「医業経営=儲かる」という図式でないとおかしいですよね?それなのに病院が大赤字というギャップは、マスコミにとってかなり理解に苦しむようです。

その結果、「儲かるのは開業医だからだ」という幻想が生じ、昨年頃から「診療報酬を開業医には低くして病院には高くしろ」というベクトルのずれた議論が生み出され、実際にそういう流れになりました。

これは、違います。そもそも、開業医は全員、もともと勤務医なのです。対立した職種ではありません。

私は、今まで、大学病院勤務の後、とある田舎の赤十字病院、都会の済生会病院勤務を経て開業しました。どちらも大きな病院でしたが、半官半民で純粋な公立病院ではありませんでした。非常勤ではありますが、地元の市民病院がはじめての公立病院勤務でした。

中に入ってみると、コスト意識のなさにびっくりしました。利益を出さなければ潰れるかもしれないという意識が全くないので、無駄だらけです。白衣など頼んでもいないのに、勝手に新品が年に1回はプレゼントされます。

あと、職員の給与の高さも水準を遥かに超えています。さらに、サヨク系の労働組合が盛んで、残業代はガッチリとり、休暇もたっぷり与えられます。

医師の給与に関してですが、事務や看護師の方々よりは高給ですが、部長クラスでも、正直、年間1000万円は超えないと思います。

昔は公立病院勤務医でもいろいろアルバイトに行っており、そこでバランスが取れていたのだと思います。アルバイトは何故かマスコミには極悪非道なことをしていると叩かれ、今や公立病院では絶対禁止、半官半民病院でもほぼ禁止のようです。

「公務員が勤務時間中に他の職場で働いているのはけしからん!」

という論法ですが、9時〜5時の市役所勤めなどの方々と同列に扱われては辛いですね。このアルバイトが医師の需給バランスを均衡させていた面は絶対あります。


その結果、国民の願望(公立病院の部長先生は立派でバリバリという)とは裏腹に医師は「勤務医として行きたくない病院」になってしまいました。

医療業界はお金が発生(収益を上げる)するには、医師からしかありません。(診察や手術はもとより、リハビリなども医師の指示が出てからということになります)

つまり、腕のある、患者さんに人気のある医師がいなければ必然的に患者数は減り、経営は苦しくなってきます。

その結果、赤字になると、新たな医療機器の更新が滞り、古い機器での診療を余儀なくされます。こうなると悪循環でございます。

という訳で、私なりには

・親方日の丸の公務員意識によるコスト意識の欠如
サヨク労働組合の横行による人件費の高騰
・医師から見て、魅力のない職場→良い人材が集まりにくい

という3点が公立病院が陥っている窮状の原因だと思います。