深刻化する医師不足 by A

岩手県では、医師不足により県立の医療施設の入院ベッドの廃止を余儀なくされ、県知事が議会に土下座したことが話題となっています。昨今の医師不足は知事のせいではありませんが、土下座してまで議会を説得しなければならないほど、事態は深刻化しているといえそうです。

以前B先生が書かれていたように、不足しているといっても、実際は地方の公立病院の医師が不足しているのです。公立の総合病院⇒民間病院⇒開業医や美容クリニックという具合に、医師が流れています。B先生も書かれていたように、公立病院に人気がないのには理由があり、それは、給与、設備、医療スタッフ(看護師やパラメディカル)の質の低さ、そして、患者さんの問題と多岐にわたります。

今になって思うと、医局が元気だったころ、これらの病院に医師が大量に派遣されていたこと自体、不思議な感じがしてなりません。なぜ派遣されたかと考えるに、多分、医局の論功行賞の一部分として、立派に職を務めたあとの身分が魅力的と思えたからでしょう。事実、のちに教授職を射とめた人は公的な病院の部長先生だった人が多いです。大体、そのような病院の院長は系列大学の教授を務めた人であることが多く、そんな病院で頭角を現して母校の他科の先生方の評判を取るのも、教授選で勝ち抜くには必要だったのでしょう。

公的総合病院は大学の都合にふりまわされていただけだったのです。大学にとって、教授を育てること、教授の再就職先になること、および研修医の教育をすることが主な目的でした。結果として医師に不足はしなかった。しかしそのためには、経営効率を度外視して難症例を集め、立派な設備や研究室を備え、あるていどの研究予算も見込めることが条件でした。ところが、10年まえごろより地方公共団体の財政が苦しくなり、病院へ潤沢な資金を流せなくなったことに加え、厚生労働省の失策で、卒後研修医が大学に残らなくなったことから、大学にとって公立総合病院の存在価値が大幅に低下してしまいました。これがいわゆる「医師不足」や「医療崩壊」の本当の原因です。

医師不足の解消は一筋縄ではいかないことがよくおわかりいただけると思います。少なくとも、医師の数を増やしたところで大きな効果は期待できません。都会の美容系クリニックが増えるだけです。かといって、公立病院を立て直すことは、大学医局が崩壊した今、全く不可能なことです。厚生労働省は卒後研修を元の状態に戻すような政策を考えているようですが、覆水盆に返らず、大した効果は期待できないでしょうね。(この稿つづく)