リスクをとる医療とまったり医療 by A

これで3回連続になりました。今回で一応のケリをつけたいと思います。毎日のようにこんな文章を書いていて、暇な人だなと思われるでしょうね。実際、3月のこの時期は意外に患者さんが少ないです。きょうも、外来を女医さんにまかせて、グダグダと過ごしています・・・。

私の友人に300床規模の病院を経営している外科のお医者さんがいます。外科、内科、産科などの急性期医療を行う、いわゆる一般病院ですが、このような病院を個人で経営するのは並大抵のことではありません。彼は「リスクを取れる医者が少ないので経営がしんどい」と言います。リスクを取るとは、医療行為を行った結果、病気が治らない、あるいは悪化する可能性があったとしても、それが唯一の方法であることが分かっている場合、あえて行うということです。

考えてみると、急性期疾患に対する医療行為のほとんどは、多少の危険を伴っています。心臓手術や抗がん剤の治療ほどではなくても、たとえば、糖尿病網膜症に対するレーザー治療にしても、視力を更に悪化させる危険があります。危険を回避していては、急性期医療は不可能と言っても言い過ぎではありません。

リスクは患者さんにとってのものですが、実は、医者側にもあります。悪化することにより、患者さんの信用を失い、場合によっては医療訴訟の被疑者にたたされるというリスクです。善意で行った医療行為の結果、患者さんから訴えられるとすれば、これほどつらいことはありません。リスクをとる医療とは、それらがすべて分かった上で、あえて患者さんのために行う行為であり、男らしく、勇気のある行動です。

表題のまったり医療とはこれらのリスクを回避しつつ行う医療のことで、健康相談、会社の保険医、保健所の所長、老健施設の施設長、美容皮膚科、放射線診断、コンタクトケア、メガネ処方、セカンドオピニオンなどが該当するでしょう。

リスクを取る医療こそ本当の医療行為といえます。しかし、同じ給料で、あるいは多少給料が高くとも、リスクを取る行為はしんどいと思う医者が多くても不思議ではありませんね。どこの世界で自分から墓穴を掘る人が居るでしょうか。使命感がなければ行えることではありません。医師を公務員として雇用すれば、まったり医療ばかりがはびこってしまうことでしょう。

医者の使命感を如何に醸成するかということが、医療崩壊から立ち直るキーポイントになるはずです。これは多分お金だけでは解決しません。医師としてのプライドと金銭の総和になってくると思います。たとえば、誰も成功したことのない手術を成功させたとしましょう。得られる報酬は、並み居る同業者からの賞賛であり、プライドを十二分に満足させることにより、金銭的に赤字でもあえて行う医者が居ることでしょう。

手前味噌ながら、眼科手術開業医はリスクを取る医療の実践者です。開業しつつやりがいのある医療が出来るという点で、医者のなかでも眼科医は特に恵まれていると思っています。