世襲開業医の憂鬱 by B

今朝の新聞を見ておりますと、自民党内で「世襲制限」をするかどうかで揉めているようですね。http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00153562.html

自民党世襲制議員が多く(議席204人中101人:41%)、それが国民受けが悪いから世襲制限が必要とのことです。個人的には全くナンセンスだと考えております。世襲世襲でないかは、本人の生まれた時点で決められていることですし、政治家の資質とは全く関係ないことです。麻生総理は慎重姿勢とのことですがそりゃそうでしょう。

斎藤道三豊臣秀吉は叩き上げかも知れませんが、織田信長武田信玄は2世大名です。「親父がこうしてたから、それを反面教師にしてこうしよう」とか「親父のこういう所は見習おう」など、幼少の頃から間近で見ているがゆえにその職業に対するプロ意識が高まる長所もあるはずです。

全員が2世議員というのはおかしいとは思いますが、親と同じ方面の職業に進むという傾向は、他業種でもあると思うので、政治家だけ殊更取り上げるのは疑問です。政治家としての資質は親の職業とは別のはずです。それこそ、そこの所は有権者が判断して落とせば良い話です。

世襲比率が高まっている背景は、終戦後70年近くなり、社会の変革が起こっていない為だと思います。戦乱などがおこれば全てが御破算になりますからね〜。

では本題に入ります。私は何を隠そう世襲(?)医師です。医師の場合は国家試験がありますので、歌舞伎や家元、皇室などとは違い世襲という言葉が当てはまらないような気もしますが祖父、父と続く家業を継承しております。まあそれをいうと政治家も選挙という関門を通らねばならないので、厳密には世襲という言葉はおかしいと思いますが。

一昨日の月曜日に、K先生が当院に見学に来て頂きました。K先生と私は偶然、生まれ育った境遇および環境が似通っており、お話をしていると、非常に共感を得ることが出来ました!

継承開業は、傍で見ていると、ゼロからのスタートではないので、非常に有利だと思われがちですが、実際はそうでもありません。

メリット
・既にハコ(医院)や医療機器があるので、設備投資が新規より少なくて済む
・患者さんがある程度ついている
・親が元気な場合は医師2人で始められる

デメリット
・旧勢力との戦い〜ジェネレーションギャップ〜

大概、跡を継ぐ時には医院に閑古鳥が鳴いており、ハード面、ソフト面、診療面全てにおいて古〜いやり方が横行しております。土地代はいらないかも知れませんが、医院改装、設備のアップデートには多額のコストがかかります。親世代はそれでやって来たので、悪いとも思わず、古き良き時代を懐かしみ、現状を時代のせいにして憂いております。そこを改革するのは、親としても面白くないことが多く、子供側も非常にストレスで、ここを上手く乗り切らないと継承時に親子喧嘩をし、勘当状態になった家も珍しくないはずです。

・一族の代表として

新規の場合は自分のファミリー、従業員を食べさせて行くことから始まりますが、継承の場合はプラス両親を養っていかねばなりません。人間、一度生活レベルを上げるとなかなか下げることは出来ないものですので、結構大変であります。医者やし、蓄えが十分あるはずだと思われるかも知れませんが、ところがどっこい!それがそうでもないのです。昔は医師優遇税制などもあり、古き良き時代を生きて来られたので、お金はあくせくしなくても入ってくるものだとの考えがあり、昔のお金目当てに群がる銀行マンや証券マン、不動産マンの甘言に乗せられ、バブル崩壊リーマンショックなどできっちり損をしてたりします。

・場所を選べない〜新興勢力との戦い〜

親がバリバリやっていた頃は眼科開業医が少なく寡占状態でしたので、黙っていても患者さんがわんさか押し寄せて来たのですが、時代は移り変わり、周辺にはたくさんの同業者がおります。例えばラーメン屋に行って、一回ゴキブリが入っていたら二度とその店には(看板が変わっても)行かないように、昔からその土地に存在している分、一度失ってしまった患者さんを取り戻すのは至難の業でございます。リサーチをして、眼科開業医の少ない土地に新規でやる方が、将来的な展望は掴みやすいし、親との確執もないだろうし、継承後しばらくは夜、寝床の中で嫁はんとそんな話ばかりしておりました・・

などなど・・。流行っている眼科を継ぐ場合はまた別だとは思いますが、ほとんどの継承開業医の先生方は同様の思いを抱いているのではないでしょうか?

これは別に医者の世界だけではなく、家業を継ぐ自営業者なら、どの世界でもある苦労だと思います。であるがゆえに、どの業界でも代を重ねて続いている老舗は、まず続けているだけでも立派だなと思えるようになりました。

徳川家康

人の一生は
重荷を負うて、遠き道を行くがごとし
急ぐべからず
不自由を、常と思えば不足なし
心に望みおこらば、困窮したる時を思い出すべし
堪忍は、無事のいしずえ
怒りは、敵と思え
勝つことばかりを知って、負くることを知らざれば、
害、其の身に到る
己を責めて、人を責めるな
及ばざるは、過ぎたるに優れり

慶長八年正月十五日

と人生訓を残しておられますが、いや〜さすがに征夷大将軍!良いことを仰られます。

何だか、今回は重たいブログになりましたが、勿論こうボヤキつつも辛いことばかりではありません。今は継承開業して3年目に入り、安定期に入っております。社会に出る前のように毎日両親と顔を合わし、喧嘩もよくしますが、何と言いますか、親孝行をしている実感はありますし、向こうも言わないけれども感じてくれていると思います。

ただK先生とお話をしていて、2人とも激しく同意していた点は、

「開業医は(こうならないように)、ずーっと勉強して知識のアップデイトを続けていかねばならない!!」

という事です。70前後になっても学会に出て、知識のアップデイトを続けている先生を会場でお見かけすることがありますが、将来的にはそういう老先生を目指す所存でございます。(まあ親父も僕が小さい時、「医者は死ぬまで勉強しなあかんのや」と言ってましたが・・。僕の子供が跡を継ぐ時にも、子供にボロカス言われてるかもしれません)

K先生、わざわざ遠方よりお越し頂き有難うございました!お互い頑張りましょう!!