多焦点眼内レンズかモノビジョンか by B

北野誠に関してブログを書いたら一気に閲覧者数が増えました。芸能ネタってやっぱり皆の関心事なんですね〜。改めて実感いたしました。

当院は眼形成手術(主に眼瞼下垂手術)も、月に一回、専門Drに来てもらい執刀してもらっております。一応、看板やHPなどでも、売りの一つとして掲げておりますので、患者さんからの問い合わせの電話がしょっちゅうあります。

良くあるパターンが以下のものです。

Aパターン
「○○病院の眼科の先生に聞いたら、『あなたは眼瞼下垂ではない。手術の必要はありません!』と言われましたが、自分で色々調べるとやっぱり眼瞼下垂だと思います。一度診察して下さい。」

Bパターン
「眼瞼下垂の手術をして下さいと眼科の先生に言ったら、『傷跡が残るし、やめておきなさい。視力の数字がでているのだから』と言われました。やはり傷跡は残るのでしょうか?」


電話問い合わせの方を実際に診察しますと、思い込みの眼瞼下垂の方も少しはおられますが、思いっきり下垂を来している方も少なくありません。A、Bパターン共に、眼瞼下垂症に対するDrの知識不足、および、それを感づかれるのを防御するために、少しキツめにその疾患並びに手術の否定をされるのでしょうね〜。

そうする事によって、自分の、患者さんに対する面子は保たれるかも知れません。しかし、患者さんにとっては手術を受ければ治る可能性が高いのに、その選択肢を専門家(と思っている人)から否定されると混乱しますよね。今更言うまでもないですが、インターネットの普及に伴い患者さんの知識量は増えておりますので、疾患によっては患者さんの方が知識がある場合もあるでしょう。その際、良識ある医師は

「私は専門じゃないのでよくわかりません。良くわかる先生を紹介しますので、その先生にしっかり診てもらって判断して下さい」

と言うべきじゃないでしょうか?

同様の事柄は、良くありますよね。多分、LASIKに関してはかかりつけ眼科医の偏見や知識不足により二の足を踏んでおられる方がまだまだたくさんおられると思います。

偉そうな事を書いてますが、自分自身も同様の事がないように注意が必要です。私にとっては「オルソケラトロジー」がそれに当たるかも知れません。数年前にメジャーリーガーの松井稼頭央オルソケラトロジーレンズがずれたまま寝てしまって、翌日は全然みえなくて、試合を欠場したニュースがあり、それが凄い印象に残っておりますので、患者さんに聞かれるとついつい否定的な意見を言ってしまっているような気がします。一回、ちゃんと勉強せねばと考えております。このブログをご覧の先生でオルソKに造詣が深い先生がおられましたら、また教えて下さい!

また前置きが長くなってしまいました・・。さて、昨日「ocular surgery news」が届いたので、パラパラみておりますと、「外科医が多焦点IOLに懐疑を表明」との見出しがついておりました。その記事を要約すると、

「多焦点IOLはコントラスト感度を低下させ、photic phenomenon(ハロー・グレアの意味?)を惹起することを確認している。回折型レンズは光線のそれぞれ41%が近見と遠見に振り分けられ、残りの18%は散乱により失われる。さらに焦点のあった像は焦点の合っていない光線を浴びている。また、乱視、水晶体後嚢混濁、黄斑機能不全などの比較的小さなレベルのデフォーカスが大きな影響を及ぼし、LASIKやYAGなどの二次的介入が30%もの患者に必要な可能性がある。よって、眼鏡に依存しない試みの上ではリスクの高い方法である。それならばモノビジョンの方が光線の100%が直接一つの焦点に向かうため、視覚の質の点で禁忌がより少なく成績がより良好である。優位眼において遠見正視、非優位眼には-1.25Dの近視目標で、高い水準の眼鏡非依存性を提供できる。多焦点患者の19%が視力不良と評価したのに対し、モノビジョン患者ではわずか2%であった。」【Graham D.Barrett医師(MD)】

とのことです。私、どっかの学会で同内容の講演を聞いたことがあるので、同じ先生なのかも知れません。

多焦点IOLの長所欠点を知らずに使用しているsurgeonはいないに決まっており、皆それをわかった上で適応を設け、比較的大丈夫そうな患者さんに対して施行しているわけです。ただ、そんなに簡単に出来るモノビジョンが本当に良いなら、もっと普及しているはずと思いますが如何でしょうか?

私自身はSCLユーザーで両眼-3Dのレンズを使用しております。試しに、利き目(右)-3D、非効き目(左)-1.75Dのレンズを装用すると、調節力がまだ十分残っている年齢ではありますが、やっぱり違和感はぬぐえません!!(今、その状態でブログを書いてます)

日本cataract surgeon界のオピニオンリーダーの一人である、清水公也先生(北里大)のグループがモノビジョンの研究をされて「適応を決めるのは凄く難しい」といった発表をされてました(確か2008年のIOL&RS誌で特集されていたような気がします)が、そちらの方が正しいのではないかと感じております。

いずれにせよ、多焦点IOLには欠点があり完璧な商品ではなく、またモノビジョンも一筋縄では行かないのは事実。ならば多焦点IOLもモノビジョンも一長一短という事で同値段ならば良いのですが、前者がさぞかしプレミアIOLのように扱われ高級医療とされているのはオカシイという議論に同調せざるを得ません。

なんぼなんでも、単焦点IOLの約10倍の値段は取り過ぎですし(現にAMOのArrayは普通の単焦点IOLと同じように売られてましたしね〜)、付加価値IOLとしてやや高めの値段設定でも良いので、保険適応にした方が良いのかも知れません。まあ最早、IOLメーカーも引っ込みがつかないでしょうが・・・。

当院的には、現時点では多焦点IOLを使用した患者さん(7人)は全員満足と答えてもらっておりますので、今後も希望患者さんがおられれば使用していく所存であります。

しかし、あのocular surgery news、もう少し読みやすい形にならないですかね〜・・・