IOLの値段について by B

お陰さまで、学会発表は滞りなく済み、ホッと一安心でございます。

多焦点IOL系の発表でしたが、3カ月以上観察出来た症例で色々統計学的検討を加えてみました。巷間で言われている通り、角膜乱視1.5以上の症例は有意に裸眼視力(遠見、近見とも)低く、全体では概ね満足という結果です。今回の検討では、なぜかReZoomとReSTOR間で低周波領域のコントラスト感度に有意差(ReSTORの方が良かった)が見られました。多分、症例数を増やせば有意差なしになると思います。


ところで、今月発売の文藝春秋に「ユニクロ栄えて国滅ぶ」という、なかなか目を惹く題名の論文がありました。

内容は「低価格で良い商品を売るという事は、詰まる所、人件費を犠牲にしているわけで、コストカットの結果、会社は儲かるかも知れないが、人々の生活が豊かになるわけではない。これは、自分さえ良ければ良いという発想の賜物であり、皆がそういう発想になれば国が成り立たなくなる。適正価格が大切である」というものです。

内容自体は目新しい内容ではありませんが、まさに正論でございまして、皆、おぼろげながらも感じていた事をしっかり文章にしてくれたという印象です。

詳細はお時間あれば一度読んでみてください。

こういう考えは、私自身、常々医療機器の業者さんなどと接する時に心がけていることであります。つまり買い手が、余り安く買い叩き過ぎても、医療機器メーカーに利益が出ないと、結局技術革新に掛けたお金も回収出来ず、次の新商品の開発に滞りが出ます。

ただ、かと言って、法外な値段で買わされるのはゴメンです。

という訳で、私が現在取っている作戦は、一つの業者さんと深く親密な付き合い(こう書くと何だか、黒い印象を持たれそうですね・・・当院は真っ白ですよ。あしからず。)をする事によって、大きな取引のうちから業者さんにも利益をとってもらい、当院も他より安い価格で売ってもらいたいというものです。言わば、担当者の良心・善意頼りの経営でございます。

これは、公立病院などでは、出来ませんね。相見積もりを取って、競争入札形式に一応なっているはずです。

しかし、これも実は意味がありません。しっかり談合しておりますので。

今回、H社の新IOLを20枚だけ買いました。この中途半端な枚数は、当院が決算前であるということと、取りあえずパーソナルA定数作成分のみ購入し、本格的な大量購入はもう少し値が下がってから・・という作戦からでございます。

H社側は「現在出せるギリギリの値段」ということですが、同じくワンピースシリコンIOLである、アルコン社のものとは、1枚当たり数千円の差があります。という訳で、もう少し値崩れするのを待っている訳です。

何度かこのブログで指摘しておりますが、今までの日本の医療業界は、同じIOLでも、大学病院を含む大病院では高い値段で売られ、開業医には少し安い値段で売られておりました。

日本医療経済がそれで上手く回っていた時期は良かったのですが、現在、大病院では利益が出にくくなり医療崩壊が叫ばれております。

市中の基幹病院の衰退は国民にとっては由々しき事態であります。

当院は、良い子ぶって、「ほな倍の値段でも買うわ!」と言ってるわけでもないのですが、IOL一枚当たりの定価が10万円などという現実離れした数字はもう止めにして、本当の適正価格を定価にし、病院の大きさに関係なく販売すれば、もっとスッキリすると思います。水晶体再建術自体の値段が12万1000円なのに、10万円以上のIOLを買うはずないですやん。(-_-)

そんな怪しげな、あって無きような定価設定なので、こちら側も「もっと粘れば、下がるんちゃうやろか??他では、もっと安い値段で売ってるんちゃうやろか??」との疑念がムクムクと頭をもたげて来るわけです。

勿論、こちらも生活がかかっているので値切り交渉はしていきますが、しっかりとした現実的な定価がちゃんとあって、その上で各業者さんが経営努力で何円引き等で売る形にした方が良いと、考えます。

何より、IOLの現実的な定価(=適正価格)が明示されていないと、真の適正な水晶体再建術の値段も決められないでしょう。