勤務医の給料を上げる? by A

今日は明日が休みゆえ午後の手術もなく、また、デスクワークも一段落いたしましたので、ここで時間をつぶしてみます。

前回のB先生の記事にコメントしましたように、医師の給料に関する厚労省の考えはほとんど偏見ですが、給料を別にすると、病院の経営の苦しさに比べ、開業医がまだましであることは、やっぱり確かなことと思います。

というのも、極端な話、開業は医師一人でも可能ですが、病院はそんなわけにはいかないからです。往診専門の開業や、麻酔のドクターによる「麻酔請負開業」などは、いわばバイトの延長のようなもので、元手といえば専門医のライセンスだけ、経営を圧迫する建物、設備、人手などは不要です。

医師のアルバイト料単価は一般社会から想像もできないくらい高いです。時間給にして一万円以上、場合によっては二万円になります(麻酔のドクター)。そうなってくると、たとえば、週に5日、一日6時間働く予定としますと、月に120時間の実働、月収240万円、年収2800万円となります。すごく割りの良いお仕事です。

しかし、割が良いからといって、皆が皆軽装備開業をすると、医療崩壊どころか、医療絶滅になります。厚労省は多分それがわかっているからこそ、(軽装備)開業医の高収入をあげつらっているのでしょう。

勤務医の給料を上げるという民主党の主張(マニフェスト)も、高度医療の担い手の技術を正当に評価するというのであれば、すごく正当な主張になります。

ところで、勤務医の給料を上げると一口に言っても、それを実現することは、今の医療制度の中ではなかなか難しいことです。まさか、子供手当てのように、勤務医に一律に金銭的補助をするということはないと思いますが、そうでもしないと、勤務医の給料を上げるという公約を実現することはむつかしいと思います。

どうやら、診療所(ベッド数19床以下の医療施設)に対して、病院(ベッド数20以上の医療施設)の診療報酬を増やすということを考えているようですが、それでは病院の経営が多少改善されたとしても、勤務医の給料に反映されるまでには、なかなかならないでしょう。これは愚策です。

入院、すなわちベッドに対して報酬をつけるという考えは、ベッドを減らすことにより医療費を削減してきた厚労省の従来の方針と真っ向から対立します。入院医療が良いという考えは、いたずらな医療費増を招くだけで、医師にとっても患者にとってもマイナスにしかならないということは、すでに経験済みのことです。

入院させるかどうかということよりも、治すことを優先して考えなければなりません。

民主党が言う「勤務医」とは、多分、「高度医療の担い手」のつもりなのでしょう。その意味でなら、勤務医の給料を上げる方法はただ一つ、専門医の技術料を正当に評価した上で、技術料が医師に直接、保険から支払われるようにすればよいだけです。海外で行われているような、技術料とホスピタルフィー(施設料)の分離を行えば、わざわざ軽装備で開業するドクターは一気に減ることでしょう。

先ほどの麻酔医の例で言えば、全身麻酔一件あたり〜万、経過観察なら時間あたり〜万という費用をあらかじめ決めておき、それに見合った報酬を支払います。

日常の診療行為でも、診察料5000円、処方料1000円という風に、技術料を決めます。手術であれば一件あたりの技術料を決めます。白内障手術なら5万円くらいでしょうか。

患者さんは手術や専門的検査の場合、医師に対する技術料以外に、施設にホスピタルフィーを支払わねばなりません。白内障手術では一件あたり10万円くらいでしょうか。これには、看護師など医師以外のスタッフの人件費や施設の原価償却費が含まれます。

日本では高度な医療を担う専門医の技術に対して、正当な技術料を評価することを怠ってきました。医師も、自身の存在価値を主張することなく(日本的美風です)、医療の一員として謙虚すぎるくらいの姿勢を続けてきました。その結果、医療崩壊にまで至ってしまいました。謙虚なのはよいとしても、責任放棄は困ります。軽装備開業にはちょっとそんなニオイがいたします。

医療行為が困難であればあるほど、高度であればあるほど高い技術料をつけ、疾患ごとになるべくマルめる(初診から治療完了までのトータルで一括しての費用を算定する)ようにすれば、医師は好んで困難な医療に挑戦するようになり、また、なるべく早く治そうとするようになり、患者にとってもプラスとなるはずです。

高度医療にはそれなりの技術的裏づけが要りますので、単なる医師免では不十分で、専門医資格がどうしても必要です。手術加療、抗癌剤の投与、カテーテル治療などは専門医資格がなければ施行できないようにしなければなりません。

新しい医療は専門医委員会が認定し、その都度技術料をつけるという風にすれば、常に医療の新陳代謝が行われます。ついでに、保険審査(査定)も専門医委員会が行うようにすればよいでしょう。医療行為が本当に必要であったか、正当に行われたかの判断は、該当医療の専門医の集団でないと無理だからです。これをピアレビュー(peer review)といいます。

専門医資格のない医師は、検診、健康相談、医療行政、介護、教育、研究などの分野に活路を見出すことになるでしょう。