戦後日本の病根―事大主義 その(3) by A

(1)(2)では、事大主義の意味と、李氏朝鮮において最終的に王朝が途絶える原因となったことを書きました。維新の志士によりなんとか独立を果たした日本との違いは際立っていました。

また、維新以前に、江戸時代、日本は商・農業が発達し、世界に冠たる都市文化が栄えました。これも、他国から干渉されることなく、「士農工商」といいながら市民の自由な活動が奨励されていたからこそです。

幕藩体制という地方自治があったことも大きいです。

さて、戦後の、「民主主義」日本では、見事なまでにこの独立の精神が打ち砕かれてしまいました。これは、占領国アメリカの、用意周到な作戦の結果であります(詳細は「秘密のファイル」など参照)。また、米ソ冷戦構造という、世界が2派に分かれて競い合う環境があったことも災いしております。

アメリカに下駄を預け、属国となり、経済発展を目指すという事大主義そのものの考えは、サンフランシスコ講和条約に臨んだ吉田茂首相による「吉田ドクトリン」というのは一面的すぎる見方です。吉田さんにすべての責任を押しつけ、それ以外の国民が免罪されるはずもありません。

ただ、吉田さんに連なるいわゆる自民党官僚派は、文字通り官僚と手を携えて米国追随政策をひた走り、戦後日本における事大主義の担い手となってしまいました。自民党宏池会がその流れにあります。

更に、清和会(森、小泉前首相)はもっと罪深いものがあります。ソ連崩壊とともに冷戦構造が終了した際(1990年代)、日本は事大主義から脱出するチャンスだったはずです。ところが、折悪しくバブルの崩壊と重なり、アメリカの属国から抜け出すというもっとも大切なことを忘れてしまいました。

事大主義の副作用、健全な批判精神の欠如、特権・エリート集団意識が作用したと思います。時の政権が既得権の確保にひた走っていたことは、当時のほとんどの人の思いを越えていました。小泉劇場に熱狂している間に、日本は新たな事大主義の枠組みにどっぷりとつかることになってしまいました。

李氏朝鮮の教訓がまったく生かされなかったどころか、ここ日本で強化されてしまいました。

アメリカ内部においても、冷戦後軍備を縮小し、局地における影響力行使を少なくするという考えもありましたが、軍産複合体ネオコン勢力に押し切られました。

アメリカの新国家戦略は「21世紀プログラム」というもので、テロとの戦いを全面に打ち出し、あくまでも軍隊を世界展開しつづけようとしています。日本における米軍も今や第二次世界大戦直後における意味合いとは大きく異なっています。

こんな中、事大主義からの脱却を図ることなく、逆に対米従属を強化したのが清和会です。今や国民からの支持が全くと言っていいほどなくなってしまっているのも当然の帰結でしょう。

911テロが謀略だったかどうかは今となってはどうでもよいことです。その後、アメリカのとった行動がすべてを物語っております。

「日本には自前の軍隊がないからどうしょうもない」、確かにそのとおりですが、「日米同盟の正体」を書かれた孫崎亨さんがおっしゃるように、軍事的プレゼンス以外にも防衛・外交努力の方法があります。

共産主義による大量虐殺で目覚め、自主独立路線を取ることができた中国のプレゼンスは今や日本とは比べ物になりません。IMF管理のあと官民一致して経済成長を目指した韓国の勢いも今の日本にはありません。

それもこれも、事大主義が原因と考えられます。

怠惰と不労働所得観念、開拓精神の欠如、企業心の不足、悪性利己主義、健全な批判精神の欠如、党派意識、特権・エリート集団意識、これらはそっくりそのまま、行政に蔓延する気分ではないでしょうか。

国家、地方あわせて公務員の人件費が35兆円といわれております。これは国の税収に匹敵する巨大な額です。今回、消費税を上げてなんとかつじつまをあわすとの考えを菅首相が打ち出し、ブーイングの嵐となっていますが、それも当然、消費税1%のアップで2兆ほどの税収に過ぎません。

昨年度の国家予算を税収でまかなうには、消費税20%が必要ということになります。法人税減税を同時に行うならなおさらのことです。

財政を改善するには支出を減らし、収入を増やすという2本立てが必要です。公務員の削減、給与減と引き換えでなければ、消費税の増税を許すことはできません。公務員給与3割カットで10兆円の削減、消費税10%アップ(計15%)で20兆の増収、これできっちりつじつまが合います。(国債の発行を0にできます)。

財務省は「格差の是正」と称して、個人所得税最高税率アップ、相続税アップも狙っております。これも、決して許してはなりません。日本経済にとって大きなマイナスとなり、競争力がますます低下し、世界の落ちこぼれとなってしまいます。

大手企業の経営者で所得1億円以上の人を公開させ、まるで悪いことのようにマスコミに騒がさせています。日産ゴーン社長は8億でもっとも多かったようですが、日本ではこのうち手取りは4億です。香港だったら手取り7億です。この違いは大きいですね。

1億円以上も所得税を支払ってくれている人々に対して、尊敬するどころか妬ましく思うというところも、事大主義のなせるわざでしょうか。

個人所得最高税率がすでに世界一高いので、日本では個人の所得を抑え、法人にため込もうとします。これでは消費意欲が湧いてくるはずもありません。富裕層の消費がドン冷えとなってしまっているので、百貨店は泣いています。

菅直人民主党政権も、行政府の事大主義だけはきっちりと受け継いだようです。