相続税 by A

今年の正月は寝正月につき、以前読んで途中で放置していた「エデンの東」(スタインベック作)を読みました。ジェームス・ディーンの映画で有名な小説です。上下2巻と結構長い小説で、映画化されているのは全体の最後四分の一に過ぎません。カリフォルニアを舞台に3世代にわたり、二つの家族について描かれています。

映画でも有名な、父親が息子に語りかける最後のシーンはとても感動的ですね。親子、兄弟間など、肉親同士の葛藤がテーマのようです。この小説を読まれるといろんな感想を持たれることと思いますが、私が一番感心したのは、遺産が兄弟、子供など肉親にほぼそのまま受け継がれるということです。遺産相続ということがなければ、この話はそもそも成立しません。

話の中心人物、アダム・トラスク氏は父親が軍人で、その遺産を弟と折半して相続し、カリフォルニアに農場を買います。これが良い土地だったので、アダムはほぼ金銭に困ることなく、子供の教育や地域社会のボランティア的な役回りに徹した人生を送ります。途中から、弟の死亡によりその遺産も受け継ぎますます金持ちになります。

この時代、アメリカでは多分相続税が無かったのでしょう。

ひるがえってここ現代の日本では、決してそんなことにはなりません。まとまった遺産には最高55%もの相続税が課せられます(平成23年4月以降)。「それなら半分はもらえるのでしょう?やっぱり金持ちはいいや」とか思っている人がいるとしたら、それは大いなる認識不足です。

つい先だっても、とある場所で、60代の姉妹二人がほぼ餓死状態で発見されるということがありました。新聞によると親は資産家で、アパート経営をされていたようです。ところが、お父様の死去により一挙に財政が悪化しました。

自営業の経営者や資産家(と税務署に目をつけられた人々)が死亡すると、その人のあらゆる資産が当局により凍結されます。貯金の引き出しも出来なくなりますので、場合によっては、事業の運営も滞りかねません。財産を受け取る権利のある配偶者や子供のすべての参加により、しかるべき相続税を支払ったのちで初めて動かせるということになるのです。相続税の支払いは死亡後3カ月以内とされています。

ここでいう財産とはお金=金融資産のみではありません。土地、建物、株、貴金属、書画骨董などなど、あらゆるものが含まれます。親がアパート経営で年収1000万円程度、貯金が3000万円あったとして、2億円相当のアパートを姉妹二人で相続した場合、その貯金では相続税として不足ですので、アパートを担保に借金しなければなりません。貯金が無い場合はさらに悲惨で、物納といって、土地の一部を取られることもありえます。

先の姉妹の場合、残された土地で収入をあげるしか生き延びるすべはなく、借金してアパート経営を続けたものの、入居人不足により経営が行き詰まったものと想像されます。

世界的に見ても日本ほど相続税の高い国はありません。しかも、財務省はこの4月からこれを更に上げる予定にしています。ロシア、香港、オーストラリア、スウェーデン、スイスなど、相続税をゼロにする国が増えてきている中、日本だけはなぜか時代に逆行しています。お金を貯めても子孫に残せないのでは働きがいがありませんね。プロ野球選手がこぞって外国に行きたがるのもこのあたりに原因がありそうです。

事業資産であれば法人にすべて移管しておくこと、個人の所得はなるべく使いきること、生前贈与を目いっぱい行うことなどが、相続税を正当に減らす方法となります。海外での相続は、相続、被相続人とも5年以上の海外暮らしが必要ですので、日本人を捨てる覚悟でなければ無理ですが、富裕層の海外移住は今後ますます増加するでしょう。

今年の4月から相続税最高税率が55%に上がると同時に、贈与税はやや軽くなっています。また、子供のみならず孫にも贈与できるようになったようです。年間510万の贈与で従来の税金55万円が50万円に減った程度ですが・・・。

世界一過酷な相続税への対策は、自分が元気で知能明瞭のうちに、周到に準備しておく必要がありそうです。