大相撲八百長報道の茶番 by A

何日か前から、大型マスコミ報道のトップを独占している大相撲の「八百長」問題。NHKの7時のニュースでも先週末から連続して毎日、トップはこれです。菅直人首相いわく「相撲を愛する国民の信頼を裏切った」と。レンボウ氏いわく「公益法人の認可はあやうい」と。政治家はともかくとして、マスコミが揃って初めて知ったかのように報道しているのが、どうにもうさんくさいですね。

といいますのも、週刊ポスト週刊現代などでは40年も前から取り上げられており、取材に応じた力士が死亡するなど、きな臭いことも多かったですし、千代の富士の53連勝はほとんどが八百長だったとか、貴乃花八百長をしない「ガチンコ」力士だったとか、最近では朝青龍八百長などなど、相撲に興味のある人ならば半ば常識として知っていることだからです。

良く言われているように、7勝7敗で千秋楽を迎えた力士がすでに勝ち越し、または負け越しが決まっている力士と当たった時はほぼ必ず勝ちます。統計的にもそれは証明されています。しかし、そんなことをあげつらうことが、大相撲のファンにとってそれほど重要なことでしょうか。

すでに勝負がついている力士が7勝7敗の力士に勝ちを譲るのは、人情としてよく理解できます。それは「勝ち越し」が出世と直結しているからです。7勝8敗と5勝10敗とでは差がないのに、1勝するだけで大きく異なってくるとすれば、力士同士で勝ち越しの譲り合いが発生するのも自然なことです。

それに、相撲界では、上位の者が下位の者に勝つべしという予定調和があります。たとえば、横綱と前頭が勝負する時、NHKの解説者は必ず、「横綱が前頭に胸を貸す」という表現をします。上位の者が勝つのが当たり前、負ければ「番狂わせ」となりますので、上位の力士はたとえ体調が悪くとも、どんな手段を使ってもできれば勝ちたいと思うのではないでしょうか。実際、(週刊誌報道によれば)、優勝が決まる、あるいは大関から陥落とかの大事な試合の際、よく八百長が行われたようです。

第一、毎日ぶっとおしで15日間の格闘勝負が年に6回もあります。これをすべて真剣勝負で行って果たして体力が持つでしょうか。素人は簡単にそのようなことを期待するとしても、プロの格闘家ならばそれが不可能であることを身を以て悟っていることでしょう。だからこそ、八百長の存在は「あたりまえ」だけれども「公には認めない」ということです。

かのアントニオ猪木さんでさえ、実際の試合でガチの勝負は人生で数えるほどだったといいます。ガチの勝負はどうやらマネージャーが交渉に失敗した時に起こったらしいです。そんな時は、顔が真っ青になって震えていたと言います。

そもそも力道山が大相撲を破門された理由は、ガチの勝負にこだわった「話の通じない」奴だったからという話もあります。

白鵬にせよ朝青龍にせよ、実際、とても強い力士には違いありません。千代の富士北の富士など、八百長が喧伝された横綱でさえ、同時代の他の力士よりも強かったのは間違いありません。だから真剣勝負だったに違いないということではなく、だからこその八百長だったとも言えるでしょう。

朝青龍とガチで勝負して、なんとか勝利を得る確率は10%、それも負傷する危険を侵しての話とします。どうせ勝てる確率が低いならば、あらかじめ大筋を着けておいて、勝負には負けるという選択肢も当然出てくるでしょう。一生懸命やったとしても、怪我をしては元も子もありません。

強い力士の側から考えても、相手に必死に出てこられて万が一負けては、優勝に手が届かない恐れがあります。それならば、相手も怖がっていることだし、あらかじめ勝負に渡りを着けておこうと考えることも自然でしょう。

それでも観衆が沸くとすれば、それこそプロのなせる技ではないでしょうか。素人が原理主義に凝り固まり、せっかくの伝統技能をつぶしてしまっては、もったいない限りです。