品川美容外科での脂肪吸引手術後死亡事件に思うこと by B

昨日、脂肪吸引のオペで70歳の女性を死亡させた疑いで、品川美容外科の医師が逮捕されました。

腸管に9か所の穴が開いていたそうですね。

小生はご存知の通り、眼科医でございますから、腸管を触る事は、研修医時代の外科研修以来ございませんので、何とも言えませんが、先の鈍なカニューレで、穿孔までするものなのでしょうか??

因みに、脂肪吸引の手術動画が見れますので紹介します。

いやはや、queenの曲に乗って、軽快に手を動かしてます・・・。おそらく、早送り動画でしょうか。

実際にあんなスピードで雑に動かしていれば、腸管穿孔もあり得るのかも知れません。逮捕された先生が、どこまで豪快な動きはしていたかは存じませんが、動画でオペされてる先生の手の動きからは、ブラインド操作による警戒心、及び「腸に穿孔するかも??」という怖れは全く感じられませんねぇ。

強度近視眼の白内障手術の際、27G鈍針でテノン嚢下麻酔をしようとして、眼球を穿孔し、網膜剥離を起こした症例を学会で見た事があります。同じ、白内障手術者として、俄かには信じがたい話ですが、こういう事も起こり得るんですね。ただ、正直、どんなに強度近視眼で強膜が菲薄化していたとはいえ、普通の術者ではあり得ないです。術者にも色々なタイプがありますが、おそらく、その先生は、解剖学的知識に乏しく、かつ、カッとなって力が入りやすいタイプの先生でしょうねぇ。

逮捕された先生も、僭越ながら同タイプであると想像します。そして、おそらく、同僚の先生方からは、「あ〜、やっぱりやっちゃったか〜。いつかやると思ってたわ・・」と言われていると推察いたします。

また、逮捕された先生は「脂肪吸引は数百例手術をして、今まで問題なかった」と言っておられますが、我々、眼科手術医から言わせて頂くと、脂肪吸引白内障手術に置き換えてみれば、手術経験数百例レベルというのは、到底、熟練者とは言えないレベルではないでしょうか。白内障手術が特殊なのかも知れませんが、少なくとも、その程度の例数で手術に対する怖れを失っていては、ダメですね。

無罪になるか有罪になるかはわかりませんが、少なくとも、手術に向いていない先生っぽいので、もうメスは握らない方が良いと思います。

勤務医時代に何人かの若い先生の手術を指導しましたが、手技的というより、性格的に手術に向いていない先生は確実に存在しておりました。ほとんどの場合は、自ら向いていないことを悟って、手術以外の道に進むのですが、中には(自尊心が高い方)、やめておけば良いのに、自らのコンプレックスを克服しようと手術をし、そして合併症をたくさん生みだしている先生方もおられます・・。卒業後、ある程度の年数を経てしまうと、もう誰もその先生にストップをかける事が出来なくなってしまうので、若いうちにその先生を指導した指導医が引導を渡すべきですね。


あと、この事件の重要な問題点は、患者さんから異常を知らせる連絡があったにも関わらず、医師に伝えずにナースが勝手に「抗生剤内服による体の不調(?)」と判断し、薬の内服を止めるように指示をして電話を切った事です。これは、ナースにも責任があるのは勿論ですが、院長が一番責任を負うべきですねぇ。手術後の急変に対する、クリニックとしてのシステムがなっておりません。

何だか今日は、自分を棚に上げて厳しいことばかり言っておりますが、同じように、手術を生業にして生活している同業者といたしましては、他山の石として、気を引き締めてかからねばなりませんね。

今回は、自由診療美容外科で起こった事件ですが、同様の(手術手技の稚拙さによる)事件は、ずーっと前から起こり続けております。私は、これら事件は「外科系医師の技術料をないがしろにしてきた日本医療制度の負の側面」とも言えると思います。

即ち、患者さんにしてみれば、手術料金が術者によって変わらないわけですから、どのドクターが良い術者なのかが完全にブラックボックスになっており、判断できないわけです。学会の専門医制度がそれに代わるものとも言えますが、少なくとも私の知っている「眼科専門医」は手術手技に関しては、全くノーチェックでございます。

やはり、手術に関してはある程度の関門を設け、同業の先生が実際に手技を見て「合格」をつけた先生が「手術専門医」を標榜し、そうではない先生と料金に差をつけるシステムになった方が良いと考えます。

「じゃあ、若い、これから手術をする先生はどこで修行をするんだ?皆、手術専門医に手術をしてもらいたいに決まっているから、ドンドンと差がついてしまうのでは??」

との疑念も当然生じてまいります。そこの所は、手術専門医のしっかりとした指導のもと、専門医がやるよりも安い価格で出来るということを了解してくれる患者さんを待つしかございませんが、白内障手術に関して言えば、片眼がバッチリ良好にいった患者さんのもう片眼をお願いするなどして、指導医が責任を持って育て上げる意識を持たねばなりませんねぇ。

逆に言いますと、「手術は医師免許さえ持っていれば、誰でも出来る」という状況を放っておくほうが、危険極まりないと考えます。手術は皆が出来なくても、得意な先生がたくさんやった方が社会的にも合理的かと思います。

逆境の中を、誠意と熱意で這いあがって来た先生だけが手術専門医の称号を得、ドクターズフィーをたくさん得られる社会の方が健全かと思いますが如何でしょうか。暴論でしょうかね?