65th 臨眼の話題 by A

今回泊まったペニンシュラは、なんと言っても会場から徒歩5分というローケーションが素晴らしいです。ちょっと疲れたら部屋に戻り、一寝入りしてまた会場へという贅沢が可能です。最近の学会はモーニングセミナーからイブニングまで、とても長い一日となりますので、年寄りにはとてもきついのですが、ペニンシュラならば全く問題ありません。

白内障、屈折手術については他の学会でたびたび聞いていますので、臨眼では普段勉強不足になりがちな、網膜硝子体のセッションを中心に聞くことにしています。

遺伝性網膜疾患の代表である網膜色素変性に対して、遺伝子治療、iPS細胞の応用、人工網膜と並んで、ウノプロストン(レスキュラ)の治療効果が検討されており、想像以上の効果があるようで驚きました。DegPigの遺伝子治療といっても、原因遺伝子が100種類以上報告されている現状ではなかなかむつかしいようです。また、iPS細胞でRPEだけでなく神経網膜をもシート状に再生可能とのことですが、実際にそれを患者の網膜下腔に入れてどれだけの治療効果があるかは、まだまだ不透明な状態です。人工網膜は装置が大げさな割には解像度が悪いので、完全に失明してしまった場合のレスキューではあっても、有用な視力が得られる方法ではありません。

一方、ウノプロストンは点眼治療ですので、今回報告されたように、視機能が有意に維持されるということだけでも、朗報と感じました。ただ、現状のレスキュラは濃度が低く、適応もとれていません。あくまで、DegPigの治療薬としてフェーズ3を目指すとのことですので、今後の進展に注目です。

糖尿病性黄斑浮腫の治療法として、硝子体手術、ILMピール、PC、ステロイド(硝子体注射、サブテノン注射、点眼)、抗VEGF薬とありますが、結局のところ、最後の方法がもっとも優れているのではとのことでした。となると、現在日本で認可されている、ルセンティス、マクジェンとも適応が取れておらず、またまたウノプロストンと同じようなことになってきます。

とはいえ、自費診療にすれば使えるのかもしれません。

増殖糖尿病性網膜症といえばPRPCが鉄則ですが、PRPCとマクジェンの効果を前向きに比較して、後者が決して劣っていないとの結果も報告されていました。となれば、レーザーや硝子体手術などに抗VEGF薬が取って代わる可能性があるということで、サージカルレチナに対するメディカルレチナの逆襲と言えそうです。

といいますのも、硝子体注射の効果は硝子体が存在すればこそ発揮されますので、薬の効果が確実ならば、硝子体を取る手術はかえって良くないということになってくるからです。今後、増殖性糖尿病網膜症に対して、硝子体注射が普及してくるということになってくるのかもしれません。

硝子体手術の小切開化がどこまで行くかに興味ありませんか?現在のところ20G、23G、25Gが1:2:2 という比率だそうですが、想像される通り、25Gの比率が今後増加してくるでしょう。アルコンのコンステレーションがまたたくまに普及しつつあるからです。コンステでは圧搾空気のみでカッターを駆動しており、25Gでも効率に問題が無いばかりか、手術自体もよりシンプルに行えるようになったと、多くの術者が証言しておりました。

今回の学会では報告がありませんでしたが、直前のヨーロッパ白内障学会に出席した先生方のお話によりますと、白内障手術におけるフェムトセカンドレーザーの流れは、増々広がりつつあるとのことです。多少硬い核でも分割と乳化が行われますので、手術とはI/AとIOL挿入のみということになってきています。

もちろん時間は今よりは多少かかりますが、術者のストレスはほとんどありません。

硝子体手術にせよ白内障手術にせよ、レーシックと同じような手術になるとすれば、手術開業の姿も大きく変わらざるを得ません。B先生が書かれていた危惧を、私も強く感じた臨床眼科学会でした。

検査器械では、トプコンの新しい広波長OCTが素晴らしかったです。学会でもちょこちょこ報告されていますように、赤外線を用いてスキャンすることにより、網膜のみならず、脈絡膜まで描出されます。また、出血で隠された組織も検出でき、網膜下出血の下のPEDやドルーゼを診断できます。OCTの可能性はまだまだ広がりつつあるようです。

この器械は多分、来年の春頃には市販されてくるのでしょうか。

白内障手術を受けた後、眼精疲労を訴える患者さんを診たことがあると思います。手術が問題なく行われているのに「頭が痛い」とか「見にくい」とかおっしゃる方です。もちろん高齢者ですが、そんな場合、毛様筋の緊張が原因の可能性ありとの見解を、眼精疲労で有名なK先生がおっしゃっていました。

治療法として、1%アトロピンあるいはサイプレジンの点眼が有効とのことです。これは早速試してみたいと思いました。

今回の学会では、ひさしぶりにポスターセッションに演題を出していました。夕方、指定の時間にポスターの前に集合するスタイルです。すると、普段よくお見かけするのに、お話する機会のなかった先生方と、直接お話しができ、とても楽しかったです。口演にはない、ポスターの良さを再認識いたしました。