TPPと医療 by B

最近、学会発表(臨眼じゃないです)、医療機器メーカーの講演、(突然振られた)眼科雑誌への投稿、地元のお祭り、それに日常診療の繁忙さが重なり合って、目の回るような忙しさでございました。

お陰さまで、ようやく落ち着きを見せてまいりました。

地元のお祭りですが、「今年はやけに観客が多いなぁ」と感じておりましたところ、史上最多の15万人近くが来てくださっていたとのこと!!普段は寂しい地元が盛り上がって嬉しい限りでございます。

特に今年は、あの津波に襲われた町の方々が招かれておられました。楽しんで頂けたなら幸甚でございます。困苦の極みにある日本人同朋を目の当たりにして、熱いものがこみあげてくると同時に、一日本人として、復興に向けて、「我々は一丸となって頑張らねば!」と決意を新たにした次第でございます。

そう言えば、確か祇園祭も、昨年より10万か15万人多い約80万人が訪れたと報道されてました。

黒船襲来で国全体が混乱の極みにあった江戸時代末期に「ええじゃないか」を叫びながら民衆が熱狂的に踊る運動をしました。→ええじゃないか - Wikipedia国民がお祭り騒ぎを渇望しているということは、この平成23年が、その時代と同様の閉塞感に溢れていることの証左かも知れませんね。また、伝統のお祭りが再び見直されてきたということは、国民の潜在意識に「保守回帰」の気運が高まっているとも考えられます。なかなか良い流れでございます。

そして、現在、「黒船襲来」に相当するのが、奇しくも同じく亜米利加から押し付けられそうになっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でございます。

ここ数日の新聞報道を見ておりますと、野田総理はTPP参加を既に決意しており、それを前提にして党内の調整に入りましたね〜。幕末でいうと、さながら井伊直弼の役割でしょうか。

TPPには、「医療分野」も含まれております。もしTPPに参加ということになれば、我々眼科開業医にどんな変化が訪れるのでしょうか?

Bの(浅はかな)分析では、医療分野に関して言うと、そんなに大きな影響は受けないのでは・・と見ております。

日本医師会はTPPに対して「反対」の旗幟を鮮明にしております。→http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20101201_1.pdf#search='TPP 日本医師会 見解'

医師会の公式見解は、「TPPへの参加によって、日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ、最終的には国民皆保険の崩壊につながりかねない面もあると懸念される」とし、4つの懸念事項を挙げています。理由は、小泉改革の際の規制緩和の時と同様ですね。その理由を以下に羅列致します。

1.混合診療の全面解禁に繋がる。

2.公的医療保険の安全性の低下に繋がる。

3.株式会社の医療機関経営への参入による患者の不利益の拡大に繋がる。

4.医師・看護師・患者の国際的な移動によって医師不足・医師偏在に拍車がかかり、地域医療を崩壊させる恐れがある。

とのことですが、米国を始めとする国々との関税を撤廃するだけで、そこまで大層な事になりますかねぇ。

単純に考えると、関税が撤廃されれば、IOLや眼科手術器機は円高還元をダイレクトに受けて、こちらのコストの低下を見込めます。逆に、H社のiMicsなど、非常に素晴らしいIOLですので、米国で大ブレイクする可能性もあるのではないでしょうか。

理由の1〜3は、TPPという制度自体にそのような危惧が内包されているわけではなく、言わば反対の為に無理やり理由を作ったと言わざるを得ません。

関税が撤廃されたからと言って、いきなり混合診療の全面解禁には繋がらないでしょう。あるとするならば、100%自由診療で、米国のクリニックが日本にもクリニックを開設し、日本では認可されていない新薬などを高額な値段でお金持ちに処方するという形ではないでしょうか。一部の大金持ち相手の商売ですし、大金持ちかつ難病の方の人口なんてたかだかしれておりますので、そんなに旨味があるわけではないので、言葉の通じない日本に来たがる米国人医師は少ないんじゃないでしょうか。

結局、「混合診療の解禁」と「医療への株式会社(特に外資)組織の参入」が2つ揃ってはじめて、「公的医療機関の圧迫」「不採算部門撤退による患者不利益」などが生じるので、どちらか一方をしっかりと規制すれば問題ないと思います。

個人的には混合診療の解禁には賛成です。それをしないなら、消費税率を大幅に上げるべきでございます。

理由の4ですが、TPPで関税が撤廃されたら、我々医療従事者は、「じゃあ、外国でやろうか!!」と思いますかねぇ??

やはり、英語圏ではない、日本人の場合、言葉の問題が非常に大きいです。小泉改革での規制緩和で認められたインドネシアやフィリピン人の看護師受け入れも結局、進んでないのが現状です。

と言う訳で、他の分野の事は存じませんが、TPP参加諸国との関税撤廃自体が「日本を滅亡に導く恐ろしい協定」というわけでは決してなく、TPP条約締結時に定められるルールによってはそうなる可能性もあるという事でございます。

いつまで経っても、小田原評定は終わりませんので、ここはTPP参加を決心し、如何に日本に有利なように条約を締結するかに心血を注ぐ方が良いかもしれませんね。

ただ、確かに現在の日本外交交渉能力ではかつてのような不平等条約を押しつけられて、後世に禍根を残すような結果になる可能性はあります。

かつては世界に誇った日本のスーパーエリート軍団である官僚たちの実力が正に今、問われております。

官僚や政治家たちが日本に有利な交渉をする自信がないならば、ハナから参加せず、鎖国状態に入った方が良いかも知れないですね。

麻雀で言う「オリ」で、ここ数年は辛酸を舐めながら運気が回復してくるのを待ち、また次の勝負の機会に掛けるのも一興です。

という訳で、このTPP参加問題は、「国民的議論を」などとマスメディアは言いますが、国民で議論出来る範囲を超えた問題でございます。

野田総理が「参加」の方向に舵をきっているのは明白です。野田総理が真の愛国者であるならば、「現在の政治家、官僚達の力で、国益に適った方向で交渉出来る!」と踏んでいるはずでございます。その自信もなく、単にあのオバマ大統領の殺意のこもった眼で凄まれ、「TPP参加」と言っているだけなら、ルーピー、ペテン師に引き続いて、「売国総理」の汚名は免れないでしょう。