今年困った症例 by B

油断していたら、あっという間に12月も半ばに差し掛かってまいりました!!あと2週間あまりで今年も終わりですね。

今週は、昨日も含め、忘年会が3件あります・・。毎年の事ですが、この時期から正月休みにかけて、暴飲暴食で、ブクブクと体重が増加してまいります。今年こそ、節度を保つ所存でございます。

先週、A先生に高級串カツ屋さんに連れていってもらいました!遅くなりましたが、有難うございました!とても美味しかったです!あのお店がBの行動範囲内にあれば贔屓にしたいのですが、それだけが残念でございます。

A先生との団欒の際、「今年一番困った症例は?」というお話になりましたが、その時は、「そんなに困ったのはなかったです」と答えたような気がします・・。しかし、よくよく考えてみると、そんなはずがあるわけがなく、もう一度、エクセルに入力している手術表を見てると、記憶がよみがえってまいりました〜。

先日、同期の、とある地方病院部長と、同様の話をしておりましたところ、彼は、

「勤務病院の副院長先生の奥様の白内障手術をし、全く問題なく手術を終了し、経過も良好だったが、術1週間後に前房内cellが増加し始め、翌日、硝子体混濁も来してきたため、術後眼内炎と判断し、硝子体手術をした・・・。副院長先生にも『どうして、このような事態になったのか?』と詰問され、精神的にキツかった・・・」

と言っておりました。確かに、その状況はキツイですねぇ。無事に良好な矯正視力が出たそうなので、良かったです。

私の場合は、今年は幸い、患者さんや、患者さんのご家族から詰問されるような状況は無かったです。これが何よりでございます。

術中に一番困った症例はこれです。

【ワンピースアクリルを縫着せざるを得なかった症例】
80歳代。

目の状態:
両眼にPE(+)。水晶体嚢性緑内障にて、緑内障性視野欠損(+)。散瞳径4mm。核硬度は三好分類でgrade4。

現病歴:
他院(オープンシステムで手術をされる先生)で、followしてもらっておられましたが、「この白内障は難しいので、やるならば長期の入院が必要。視力はそこそこ出てるし、様子をみてもいいかも・・・、でもやったほうがいいかも・・でも、しばらく様子を見ましょう・・」という調子で数年経ち、ラチが開かないので、当院受診されました。

術前視力は、矯正(0.2)。前医の先生のお気持ちは痛いほどよくわかりましたが、患者さんが希望されたので、オペとなりました。勿論、日帰りでございます。

マルイジンリングを使用しました。しかしながら、チン小帯が想像以上に弱く、半分近く断裂している状態・・・。グラグラでした。

phacoは何とかなりましたが、皮質吸引が困難を極め、硝子体も前房内に出てきたため、観念し、IOLを縫着することにしました。

これまでは、H社のBBRをこのようなときの為に準備しており、使用しておりましたが、BBRを+4D〜+10Dくらいまでのlow powerしかオペ場に置いてなかったのでございます・・・。

今までもいつかはこんな日が来るのでは・・・と想像しておりましたが、ついにワンピースアクリルIOLを毛様溝縫着せざるを得ない状況になってしまったわけでございます。

無水晶体眼のままオペ終了し、縫着用IOLを注文して再手術するというやり方もありますが、やはり、ご高齢かつヨボヨボの方でしたので、何度も手術をやるよりは、少々時間がかかっても、一度で済む方が良いと判断した次第でございます。

苦闘の末、H社NY-60を縫着してオペ終了しました。

術後は、案の定というべきか、恐れていたように、30mmHg以上の高眼圧でした。

「よりにもよって、PE(+)の緑内障眼にワンピースIOLを縫着するという禁じ手を使ったためか・・・」

との考えが頭を過ぎりましたが、「NY-60で縫着しても問題ない」という噂は何度か聞いておりましたので、「高眼圧は残存皮質が吸収される過程だから、時間が経てば落ち着くはず」と信じて、ダイアモックス内服をしばらく続けて頂いたところ、お陰様で現在は落ち着き、点眼で十分に眼圧コントロールがついております。

ただ、マルイジンリングを使用して、数十分の手術時間を要したため、瞳孔がやや大きめになってしまい、IOLもやはり若干tiltしているようです。

術後矯正視力は(0.5)ですが、ご本人は本当に良い方で、僕に感謝してくれ、「明るくなった。楽になった」と喜んで下さっております。

その後、委託という形で、全長13.5mmのH社YA65BBを1Dステップで置いてもらうようにしました・・。

あとで冷静になって考えると、ワンピースIOL縫着という荒技に出るよりも、「将来的にIOLが落下すれば、それはその時」と腹を括り、CTRで嚢強度を補強しIOLを嚢内に挿入しても良かったかなぁとも思います。


もう一つあります。

【easyな症例と思っていたのに、予想外のチン小帯脆弱】
60歳代。

目の状態:
4D程の遠視眼。散瞳径7mm。核硬度は三好分類でgrade2。

現病歴:
「片眼のみが妙に見えにくい」との主訴で当院受診。術前矯正(0.7)、訴えのない他眼は(1.0)、遠視の度数は同程度でした。遠視が強いし、白内障手術で矯正すれば、裸眼で遠方が良く見えますので、良い適応と判断しオペを予定しました。片方が済めば、もう片方も速やかにオペをする予定でお話をしておりました。

ただ、この方、眼底検査の際などでも、目を開けるのが非常に苦手なかたで、何度言っても、ギンギンに目をつぶろうとされて、むりやりこちらの指で開瞼してみるような有様でございました。やはり、こういうギンギンタイプのかたは、術中も破嚢率が高いですよね・・・。

とはいえ、そのような方は珍しいわけでもなく、通常のeasyな症例と考えておりました。

オペを始めると、CCCの際、稲村セッシで前嚢切開しようとすると、核がグーッと下に沈み込みます・・。嫌な予感がして、左右に核を揺さぶってみると、グラグラでございました・・・。

術中ですが、「○○さん、前に目を強く打撲したことはありましたっけ??」と聞きましたところ、「幼少時に術眼が強い打撲をしている」とのこと、ただし、「幼いときだったので、状況は全く覚えてない。軽い打撲のような気もする・・。」とのことでした。

手術が始まってしまっており、この期に及んでチン小帯脆弱の原因を追究しても詮無きことでございますので、CCC完成後、CTRを挿入し、phacoいたしました。

で、例のごとく、皮質吸引に難渋・・・。この症例は、CTRを先に挿入しておりますので、皮質はCTRの圧力を跳ね飛ばして吸引せねばなりません。何とか頑張っておりましたが、運悪く、瞳孔中央部にベタ〜っと薄い皮質がこびりついており、なんとかど真ん中だけでも皮質をとろうと、polishしておりましたが、ギンギンに力が入っておられたため、吸引しようとした瞬間、パチンと破嚢しちゃいました・・・。ギンギンだったので、破嚢範囲も一気に広がってしまいました〜。

bimanual vitrectomyで前部硝子体をカットした後、(この症例は既にYA65BBを常時駐屯させておりましたので)IOLを毛様溝固定することにしました。

CTRも入っているので、それはそれで良いかと思っておりましたが、実際に前嚢と虹彩の間にIOLを挿入すると、sunsetのようにIOLが下方に下がってまいります・・。フックで中央部に引き戻しても、また下方に・・。CTRをいれてはおりますが、かなりチン小帯断裂範囲が広かったようで、IOLを支えきれないようでした。

何度もやりましたが、同じことの繰り返しで、虹彩裏面をフックでこすったようで出血も生じ、「球面IOLだから、瞳孔領にIOLが重なってれば何とかなるだろう」と判断し、オビソートで縮瞳しオペ終了いたしました。

術後は、最初、残存皮質、あるいは残存粘弾性物質の影響で、高眼圧でしたが、徐々に落ち着き、現在は矯正で(0.8)。この症例は、先ほどとは逆にIOLが虹彩に少し触れでもしているのか、瞳孔は術後非常に小さくなっており、存外の満足度を得ております。将来的には落下する可能性はあると思いますが・・・。

この症例に関しては、Bell現象バリバリのギンギンタイプであることを考慮すれば、中央部の薄い残存皮質に固執せずIOLを挿入してしまい、術1〜2週後まで患者さんをなだめて時間稼ぎをし、YAGレーザーで後嚢切開をするのが正解だったと思います。

現時点では結果オーライですが、まだまだ、修行不足でございます。これからも鍛錬が必要であります!!

皆様方も、もし良ければ、今年苦慮された症例を教えてくださいませ〜。

宜しくお願いいたします。m(_ _)m