今年印象に残った症例 by A

今年印象に残った白内障手術症例といえば、まず、数年ぶりのECCE手術があります。高度近視で、両眼ともnigraという、都会ではとても珍しい、進行した症例でした。「なぜこんなになるまでほうっておいたの?」とききますと、「手術しても治らないと言われた」とのこと。近視性の脈絡膜変性がありますので、「手術の効果は少ない」ということが、誤解されていたようでした。

両眼とも矯正視力0.01以下で、近視性変性がより強い方の眼はとても超音波では歯が立たないと考え、ひさしぶりにECCEをすることにいたしました。もう片眼は超音波手術にてすでに手術を終えた後でした。

ECCEではナートに時間がかかります。ナートを少なく、あるいはなしで済ませるには、長いトンネルを作り、核は輪匙ですくい出します。これは、昔、香川のN先生に教えていただいた「無縫合ECCE」です。また、前嚢切開はちゃんとCCCで行い(カンオープナーではなく)核は2本のフックで前房内に移動させます。ダブルフック法といい、敬愛するKS先生の発案です。

ECCEをたくさん行っていた頃は、上のようなやり方で、前置縫合をかけることなく、20分くらいで手術を終了しておりました。ところが、最近はなにせ、ごく稀に、しかも、特殊な症例しかECCEを行いません。少し広めの強角膜切開で核を娩出しようとしましたが、大き過ぎるため出ず、しかたなしに両側をハサミで拡大し、10mm以上の切開創になってしまいました。なんとか核は出ましたが、その頃から虹彩がウンデにはみ出してまいりました。あわてて縫合糸をかけ、なんとか前房が出来たものの、I/A中も後嚢がヒラヒラと迫っており、とても恐い思いをいたしました。通常の小切開に慣れていると、創を大きくあけるのがとても恐ろしいことを、忘れてしまっています。

7-0バイクリルで5糸くらいかけて、やっと落ち着き、なんとかIOLを嚢内に挿入いたしました。

翌日に診察いたしますと、案の定、周辺部の脈絡膜に隆起を認めました。術中の低眼圧で出血したものと思われます。もう少し対処が遅かったら、確実に駆逐性出血になっていたことと思います。

もう一例、年末の症例ですが、アトピーに伴う熟した白内障で、染色して楽勝かと思っていたのですが、耳側角膜2.2mm切開をあけたとたん、硝子体が脱出するというアクシデントに見舞われました。なんと、耳側の60°くらいがチン氏帯断裂していたのでした。術前には全く気付きませんでした。30代の男性で、網膜剥離の危険もあり、あるいはすでに剥離しているかもしれず、どうしようかと迷いましたが、とりあえず、CTRを入れて皮質処理をしたあと、眼内レンズを挿入いたしました。IOLはテクニスの一体型アクリルを使いました。

後嚢混濁と皮質の一部を残していましたが、術後、なんとか矯正(1.0)が出ましたので、胸を撫で下ろしました。ただ、網膜剥離の危険はもちろん残っており、また、早期に後発白内障になると予想されます。今のうちから、今後の再手術の可能性について、よく説明して、ご納得いただきました。

困ったということでは、術後、「物が二重に見えるようになった」と訴える症例がございました。術前の視力が両眼とも(0.3)くらい、術後(1.0)くらいに改善し、何の文句があろうかという感じですが、70代の男性のこの患者さんは、どうやら上下斜視があったようで、どうしても融像させる力が出てこなかったようです。

「手術をしたのに、よけい悪くなった」と、診察のたびに言われるのはつらかったですね。どうしても埒があかなかったので、大学病院の斜視外来に紹介してしまいました。こんな時は、紹介し、対診していただくことが、どうしても必要になってきます。プリズムメガネ処方で対処されたことと思います。

チン氏帯断裂といえば、すでに急性発作を経験していた症例で、術中にグラグラで180°以上の断裂でしたが、これもCTRで落ち着きましたので、なんとか嚢内にIOLを入れたことがございました。80才を越えた方で、また、体の動きもそれほどではありませんから、このような高齢の症例では、再度IOLが落下することは少ないように思います。入れられたら入れるという姿勢でOKかと思っています。もちろん、若い方ではこんな訳には行きませんが。

しかし、術直後から高眼圧が持続しましたので、トラベクレクトミーを行いました。慢性的なPACGでは、隅角の機能が悪化しており、手術により隅角が開放しても高眼圧になることがあります。また、嚢収縮も早期に出現し、ヤグによる前嚢、後嚢切開を行いましたが、再度混濁が出現しましたので、硝子体手術による観血的後発白内障手術を行う予定にしております。

今年の夏は外来がとても暇でした。多分、震災の影響か、あるいは暑い気候のせいかもしれません。暇に任せて、網膜剥離の手術を何例か行いました。もちろん、全例日帰りです。「あっ、網膜剥離ですね、これはすぐ手術しなければなりません。今日のお昼から手術しましょう!」という感じで、硝子体手術やバックル手術を行い、全例、最終的には復位したのですが、あとから、家族の方から、「何故手術をしたのですか?」と言われたことがありました。

こちらとしては、最高の医療を提供し、結果も出したつもりです。近隣の病院へ紹介したとしても、数日〜1週間は入院を待たされ、手術も遅れたことでしょうから、それだけ視力予後も悪かったと思われるからです。しかし、患者さんの家族さんがおっしゃるには、

「せっかく保険に入っているのに、使えなかった」ということだったのです。日帰り手術に対応している保険もありますが、普通は入院して一日あたりいくら、その上手術だと給付金いくらという具合に給付されるものが多いようです。そんな保険だと、日帰りで済ませられる手術でも「入院して」となってしまいます。これは、こちらとしても、想定外の出来事でした。

そのことがあって以来、手術を予定する前に、入院保険が降りない可能性について説明することにしています。保険会社にとっても、日帰り手術により、入院給付金を節約できる訳ですから、「入院してでないと手術給付金は出さない」という方針(すべての会社ではありませんし、誤解があったのかもしれません、このあたりは未確認です)は得ではないと思うのですが、どうでしょうか。

日帰り手術は、厚生労働省の見解では、「入院即退院」の短期滞在手術ということですから、手術給付金は、入院、日帰りの別なく給付していただきたいと思います。それが患者さんのためでもあり、医療費の節約につながり、はたまた、社会資本の無駄遣いを無くすことにもつながってくるのですから。