フェムトキャタラクトの行方 by A

眼科臨床のピアレビュージャーナルといえばOphthalmology(青本)、Archives of Ophthalmology(白本)、American Journal of Ophthalmology(黄本)、Journal of Cataract and Refractive Surgery(橙本)などが有名です。AAOアメリカ眼科アカデミー)の会員になれば青本を、ASCRS(アメリ白内障屈折手術学会)の会員には橙本が送られてきます。

開業していますと、大学医局に属していた頃のように多数の学術雑誌にアクセスはできませんが、AAOとASCRSの会員になっておれば、メールなどで日々新しい情報が入ってきますし、上記青本と橙本を毎月パラパラとめくっておけば、眼科臨床における大体の傾向はつかめます。

年会費がそれぞれ5万円くらいと少々高いのですが、これだけは必要経費としても値打ちのあるほうと考えています。

大学にいたころはARVOにも入会しており、時々フロリダに出かけたものですし、毎月のIOVSも楽しみでしたが、今やあまり関係なくなってしまい、10年くらい前に退会してしまいました。

日本における現状はもちろん、日眼、日本眼科手術学会雑誌(眼科手術)、日本眼科医会雑誌(日本の眼科)など、ほぼ強制的に定期購入しているわけですが、どちらかというと、学会の案内や保険点数の動き、保険請求の仕方などがメインであり、「臨床の力がつく」というようなものではありません。

ASCRSのメーリングリストで、「白内障」と「屈折手術」の両スレッドは、毎日のように送られてきます。ということは、とても参加者が多く、話題も豊富ということで、なかなか面白い話題もたくさんあり、アメリカの眼科医の本音が良くわかります。

最近ではなんと言っても、フェムトキャタラクトの話題が最も盛り上がりました。と言っても、これに否定的な意見が大多数をしめたのですが、それに対してある有名な先生が、「偏った意見だ」と文句を言ったことで、いわば炎上した訳です。

ご存知のように、フェムトキャタラクトでは、CCCと角膜切開、それに核の分割をレーザーで行い、乳化吸引やIOL挿入は従来の方法を踏襲いたします。得られる利益とは、CCCの大きさ、位置をコントロールしつつ、確実に作れること、角膜切開創を「より正確に」作れることです。

フェムトキャタラクトを推進する先生方は、CCCを正確に作ればIOLの位置が安定し、術後の屈折も安定するので、多焦点IOLなど、屈折矯正をメインとする白内障手術には必須であると考えているようです。しかしながら、今のところ、これをサポートするデータはありません。

一方、フェムトを用いることにより、1)一例ごとのコストが数百ドルアップすること、2)手術時間が長くなること、などのドローバックが生じて来ます。少なくともコストは保険でサポートされないだろうし、もし(間違って)サポートされるとすれば、より重要な部分で削られることは間違いないだろうから、そもそも、この世界的経済不況のおりに、これを推進する行為は、純粋に医学的、あるいは患者のためを思っての人道的行為と言えるだろうかとの疑問が、メーリングリストで提示されました。

アメリカでは、日本でタブー視される混合診療があたりまえのように行われています。一部の有名な、あるいはコマーシャリズムに乗った先生方にとって、何か目新しいこと、付加価値をつけることにより、自分の施設における自費徴収がしやすくなるとの思惑があるのでしょう。フェムトキャタラクトはそんな先生方にとって、好都合なのかもしれません。

日本でも、完全自費診療の施設では、ことさらにレーザーの性能を謳ったり、「世界で初めての」とか「世界で最も多く」とかのコピーが飛び交っています。同じようなことが、アメリカでは保険診療と合い混じる形で行われており、もう少し有名でない、(良心的な)医師が苦々しく思っている構図が見て取れます。

だとすれば、日本でのフェムトキャタラクトはどうなるでしょうか?フェムトを使ったからといって、通常の白内障手術に一定のコストを乗せて請求することはできません。あるいは、「特別にきれいな白内障手術」として、全額を自費で行うことにするとしても、結果に差がなければ、自然と淘汰されてしまうでしょう。混合診療のない日本では、なかなかに苦戦することが予想されます。

そんな状況を見越してか、フェムトキャタラクトのメーカーは、日本では医師の個人輸入を推進し、輸入された器械についてのバックアップやサポートを積極的に行うとしているようです。

フェムトキャタラクトの行方やいかに、注目されます!