M眼科見学 by B

先日、日本有数のボリュームサージャンであられるM先生のクリニックに久々にお邪魔してまいりました。

M先生は、私の生き方に大きな影響を与えてくださった方でございます。個人的には勝手に、A先生とともに、私のメンターに指定させて頂いております。

Bの所属していた大学医局は、「白内障手術は出来て当たり前。それプラス何かの専門を持たねば一人前の眼科医とは言えない」との雰囲気が明らかにございました。

Bも、新人駆け出しのころは、「数年、外病院で勉強して、大学院生として大学病院に戻り、海外留学して研究をし、その後、専門性のある手術をバリバリ行えるサージャンになりたい!家業を継ぐのは早くとも40歳半ば。」との願望を密かに抱いておりました。

所が、家庭の事情で、早くに家業を継がねばならない状況になり、「オイラは偏差値50以下の状態で、開業せざるを得ないんだ・・」としょぼくれていたわけであります。

最初にM先生のクリニックに見学に行った理由は、実は非常に不純でございまして・・、当時同年代で仲の良かったMRさんと、「どこかの医院見学を理由に二人で旅行に行こうぜ!」ということでございました・・・。もちろん、存分に傾いていたものの、家業が眼科手術を行う有床診療所だったので、同じような診療形態で、流行っている眼科はどのようなシステムでやっているか見てみたいとも思っておりました。

それまで、大学病院含め大きな病院での勤務経験しかなく、ナースがかったるそうにストレッチャーで患者さんを運んできて、時には雑談などしながら、一例一例時間をかけてダラダラ手術をやっていたBは、M先生の手術を見たとき、白内障手術のスピード、そして2列の手術台で、効率よくタッタカタッタカと一日20例以上の症例をこなして行かれる姿に驚愕いたしました。

そして、白内障手術は習得していたつもりでしたが、それは単に白内障手術道の入り口にいるだけに過ぎず、まだまだハナタレ小僧でしかない事実を突きつけられたとともに、他に何の専門性もない代わりに、白内障手術だけは人並み以上に一生懸命やっていこうと決心したわけでございます。心の霧が晴れた瞬間でございました。

そんな訳で、何度かM先生のクリニックに勉強しに(半分遊びに)行っていたわけでございます。

今回の見学の目的は、現在硝子体手術時に使用しているCV24000号のリース期間が終了し、やや古くなってきたため、M先生が兼ねてから絶賛されているB社星野号の実際を拝見し、硝子体手術マシーンを新規購入する際の参考にしたかったことがメインでありました。

B社星野号は、素晴らしかったです。

B自身、星野号のデモを経験済み(→星野号デモ〜止揚(アウフヘーベン)したベンチュリーポンプ〜 by B - 眼科手術開業医の戯言)、その性能は高く評価しておりましたが、当時は、最少1.8mmから挿入可能なC-MICSチップが登場しておりませんでした。

C-MICSチップは核をとらえる先端部分の外径が19Gと20Gの間くらいの太さがあり、シャフト径は21Gくらいの細さとなっているカリ高タイプのチップであります。(例えが不適切でしたか・・・)

そのチップで、切開創は2.4mmでオペをされておられました。設定は、ベンチュリーポンプでバキューム450mmHg(!)でございます。硬い核の症例では600mmHgでフェイコを行っておられましたが、それでも前房は安定しておりました。驚きです!

小生の愛用しているA'社サイン号ですと、21Gチップを使用しても600mmHgはもとより、450mmHgも無理ですね。

これは、以前のブログでも高く評価したマイクロメッシュフィルターもさることながら、B社の吸引チューブの剛性が従来品とは比較にならないほど硬く(分厚く)作られており、チューブ径の変動によるサージがほぼ皆無になっている為、可能なことのようでございます。

チップ径が細くなればなるほど、威力を発揮するベンチュリーポンプですが、チップ径が細くなればなるほど核破砕の効率が悪くなるのが弱点でございます。結局、Bはそれでサイン号による2.2mm角膜切開+21Gチップを止めてしまったわけですが、カリ高チップはその弱点を補いますし、いいとこ取りが可能となります。Bもサイン号ベンチュリーでカリ高チップを試してみようと思います。

そして、M先生に、最近Bが心に抱いていた、「実は横振動って不要じゃないか?」という疑問をぶつけましたところ、M先生も「横振動は創を痛めるからなくていい」とお考えのようでした。

IOLは、2.4mm切開から、A'社テクニスをA社Cカートリッジ&インジェクターを使用して、カウンターを当てて挿入されておられました。

Bは、A'社からテクニスを使用するように執拗な(?)勧誘を受けておりましたが、A社Dカートリッジを使用すれば、たまにロケット発射になりますし、純正インジェクターシステムを使用すれば角膜2.4mm創から挿入できないので、お断りしておりました。ああすれば、2.4mm創から安全に挿入出来るのですね〜。勉強になりました。

A社IQに関して、M先生のお考えを改めて拝聴し、深く考えるところがありました。

すなわち、

「10年以上経過するとグリスニングやホワイトニングが高頻度で出てくる。グリスニングに関しては、視機能に影響を与えないかも知れないが、ホワイトニングに関しては100人に1人くらいの割合で視機能に影響を与える可能性がある。地域密着手術開業医は10年以上経過を観察することも珍しくはない。これは看過できない。」

とのことでございました。小沢一郎の「数は力、力は数」ではございませんが、M先生ほど症例数をこなされ、長年にわたって術後経過を見ておられる先生の言葉というものは重いものがあります。

確かに、IQは早いものでは術後数カ月でグリスニングが出現し、数年でホワイトニングを認めるものもあります。患者さん自身が、それによる視力低下を訴えていなくても、YAGレーザーによる後嚢切開を行うとき、レーザーのピントが散乱して、合わせずらいことがままあります。これが視機能に影響を与えないとは限りません。

IQは、IOLを製造する際の温度や湿度を変えることによって、この欠点を克服したとしておりますが、その程度で克服出来るならば「もっと早くやれよ」と思いますし、生体内での10年以上後の経過は、まだ誰にもわかりません。

A社は「なぜ従来の製法では、そのような欠点が出現し、なぜ、温度や湿度を変更することによって、欠点が克服できたのか」を真摯に説明しなければなりませんね。

しかし、どう考えても腑に落ちないのは、「訴訟大国アメリカでそれほど問題になっていない」ということです。

日本では、IQは、少なくともグリスニングはほぼ必発と捉えれられていると思いますが、これは黄色人種だから起きやすいのでしょうか??

その他にも、M先生から色々勉強になるお話を聞かせて頂きました。また折りがあれば触れます。

最後に、今回のM眼科見学時に、Bが財布を紛失し、皆様に多大なご迷惑をかけてしまいました!!!幼いころより「忘れ物の王者」の称号を欲しい侭にし、母親から、散々怒られ続けてきたのですが、いまだに克服できておりません!この場を借りて反省とお詫びをさせていただきます。
m(_ _)m