NDの新知見 by A

以前このブログで問題となったnegative dysphotopsia (ND)について、最近のJCRSにJack Holladayの論文が出て、ASCRSでも話題になっておりますので、取り上げたいと思います。Negative dysphotopsia:The enigmatic penumbra. J Cataract Refract Surg 2012; 38:1251-1265

その前に、昨日のイチローの移籍についてひとこと。日本時間の朝8時に会見があり、ヤンキースに移籍し、その日の試合からヤンキーとして登場することが明らかとなりました。少しうわさがあったとはいえ、まさに青天のへきれき。今にも泣き出しそうなイチロー選手を見て、やはり、アメリカ社会は厳しいなあと実感いたしました。

前回のブログで「あのイチローでさえ批判にさらされている」と書いたとたんのことで、自分としてもその符牒にびっくりいたしました。

3500安打の実績を誇るイチロー選手が予告もなく突然の移籍。会見ではイチロー本人から申し出があり、「来年以降、自分の居る場所がない」とのことでしたが、それを額面通り受けたとしても、自分をトレードにと言ったことを受けて実際に球団がそうしたということは、球団の意向でもあったはずです。

それにしても、ホームが一転敵地になるとは、なんというはかなさ。あるいは、これも一種のショーアップだったのでしょうか。アメリカ人の考えることはさっぱりわかりません。甲子園で迎えた巨人との三連戦初日、金本が巨人のユニホームで出てくることなど、想像すらできませんから。誰かが言ったように冗談としか思えませんね〜。

救いはセイフィコフィールドの観衆が温かかったこと。イチローに対するスタンディングオベーションを見ていると、さすがに涙腺が緩んできました。イチローが新天地でもう一度花を咲かせてくれることを祈らずにはおれません。

さて、前回のおさらいになりますが、NDとはIOL挿入術のあと、「耳側に影が見える」と訴える症状のことです。これに対してはちょうど一年前に話題としておりますので、まず、この記事をご覧ください。ここで、Masketは、NDの原因として、IOLの前に位置するCCCの端があやしいとの説を立てました。しかし、ちょっと理論的に納得のゆかないところもありました。

この一年で、同じような症例をいくつか経験いたしました。うち一例でMasket先生のおっしゃるように、CCCを光学部後方にずらしreverse optic captureといたしましたが、患者さんの訴えは無くなりませんでした。

そこで今回の論文ですが、光線追跡法で偽水晶体眼モデルを検討しております。内容は多岐にわたりますが、要約しますと、NDといわれる現象を再現することは可能であり、これは、光が耳側から入った際、一部は光学部を通り、その他の光は光学部を通過せずに網膜に達しますが、その間に光がなくなるエリアが生じることが原因と述べています。我々も、硝子体手術の際、IOLがあると、周辺部網膜に観察不能エリアが出てくることをよく経験いたします。これと同じ現象だというのです。

そういたしますと、IOLの光学部のデザイン、質などがこの現象に影響します。NDを起こしやすい条件を列挙いたしますと、材質としては屈折率の高いもの、断端がシャープエッジ、前面の曲率半径が大きい(平面に近い)、などとなっており、ほぼA社のアクリルレンズの性質と重なってきます。もちろんシリコンレンズでも生じるとはいえ、その確率は低くなってきます。

瞳との関係では、瞳が小さい、光学中心より瞳中心が鼻側へずれている、あるいは、IOLとの距離がアクリルレンズでは0.06〜1.23mm、シリコンレンズでは0.06〜0.62mmで出てくるそうです。

仮にIOLが瞳の0.45mm後方に位置するとすると(ということは、大多数の症例ということになりますが)、アクリルレンズでは視角にして14°という広いダークエリアが生じるのに対して、シリコンレンズでは2.3°に過ぎません。

また、Osherが述べた耳側透明角膜切開との関連については、その部分を通過する光が影響するので、説明可能とのことでした。術後経過とともに改善する傾向があることについては、IOLの外側の前嚢と後嚢がくっついている部分で後発白内障により、光の透過性が低下してくることと関連しているのではと述べられています。

一部の眼内レンズがNDを起こしやすいという結論は、そのレンズのメーカーから反発を受けることでしょう。Masketの論調はまさにそのようなメーカーの意向に沿ったものであると見受けられなくもありません。Holladay対Masket、眼科の大御所同士の対決は最終的にどちらに軍配が上がるのでしょうか??