フェムトキャタラクト by A

ASCRS(アメリ白内障、屈折手術学会)は毎年、日眼と同じころに開かれます。今年はサンフランシスコですので、久しぶりに顔を出そうかなと考えているところです。ただ、送られてきた抄録集を見てみますと、フェムトセカンドレーザーによるCCC、角膜切開法がかなり多くなっているのが目立ちますので、この方法についてそれほど興味がない小生にとっては、「どうしようかな?」というのが本当のところです。

アメリカに留学していた頃、サンフランシスコといえば気候もよく、風光明媚で、あこがれの地の一つでした。AAOやASCRSのたびに訪れたものです。ある時、オリンピックCCで行われたPGAトーナメントを観戦したりもしました。グレグ・ノーマンやコーリー・ペイビンが現役の頃でしたね。

今日はフェムトレーザーによる白内障手術についてちょっと書いてみたいと思います。

私は白内障手術に加えて、屈折矯正手術LASIKも行ってきました。LASIKの分野ではフェムトレーザーがいち早く普及していることは、皆様ご存知のことと思います。私の施設でも、今年こそは導入する方向で検討しているところです。LASIKにおけるフェムトレーザーの利点を考えることは、白内障手術への導入の参考になることでしょう。

通常のマイクロケラトームに比べ、フェムトによるフラップ作成では、より確実に、正確にフラップを作ることができます。フラップの厚みを一定にしたまま、大きくとることなどフェムトだと簡単ですが、器械式ケラトームでは簡単ではありません。といいますか、器械式ケラトームによるフラップは厚みが一定ではない欠点があります。

それでは、そのことがLASIKの結果にどう影響しているのかということになりますが、それほどの違いはありません。視力、波面収差のいずれでも大きな差は出て来ません。器械式であっても、フェムトでも、同じように良い結果が得られます。器械式ケラトームも改良が進んでおり、フェムトと同じような薄さで切ることが可能になっているので、尚更のことです。

それでは何故フェムトが普及するのかという一番大事な点ですが、それは器械式ケラトームで時として起きる事故、フリーフラップやボタンホールが起きにくく、安心ということにつきるかと思います。操作を知りさえすれば、誰でも同じようなフラップを確実に作れるということです。何人もの術者で手術を行い、中にはそれほど経験のない眼科医も含まれている場合、フェムトの設置は経営者にとって大きな安心感をもたらします。

ついで、角膜内にトンネルを作ったり、自由なデザインで切開できますので、リングやカムラなどに対応しやすいことがあげられます。もちろん、全層、表層角膜移植に関しても、威力を発揮いたしますし、今後、フェムトならではの角膜手術がどんどん開発されていく発展性も大きいと思います。

翻って、白内障手術におけるフェムトレーザはどうでしょうか。まだまだ即断は避ける必要がありますが、小生の見るところ、角膜手術におけるメリットほどではないと思ってしまいます。

CCCをレーザーで行うと正円で同じ大きさに、同じ位置(中心)に作れます。これは、手で行うCCCよりもあるいは美しいかもしれません。しかし、一部の人、あるいはメーカーが主張するように、「屈折の予測がより正確」ということはないと思います。この点について、いくつかの論文がすでにありますし、たとえば、光学部を完全に覆ったいわゆるコンプリートカバーを術後にたとえばヤグ前嚢切開ではずしたとしても、屈折値はほとんど変わらないことからも、想像できます。

手で行うCCCが常に周辺に流れてしまうということは、熟練者にはまずあり得ません。しかし、初心者にとってあり得る話ではあります。しかし、もちろん、巨大でコストのかかるフェムトレーザーは初心者のためのものではありません。

また、CCCの大きさと形、位置にこだわるのは何もレーザーの助けを借りるまでもなく、自分の手でも行えます。自分の手だと、たとえば散瞳が不良例で、瞳孔の大きさ以上の大きさのCCCを作ったり、あるいは、術前の判断ではわからなかったチン氏帯断裂の存在に気付いたとたんに、CCCをわざと大きくするといった、当意即妙の切り替えも簡単に行えます。

加えて、コストのみならず、時間もより多くかかるとすれば、どうひいき目に見ても、CCCと角膜切開に関する限り、レーザーが人の手に勝るとはとても思えません。

しかし、レーザーキャタラクトがpromisingでないということではありません。現状の超音波手術の形式をなぞるだけではあまり意味がありませんが、たとえばCCCをしない手術とか、現在の術式からは想像できないようなステップに進みえる可能性はあります。楽しみな技術には違いありません。