低眼圧、ノンハイドレーション 創閉鎖 by A

S先生の問題提起された無限号による創口異常ですが、前々回の質問でも述べましたように、個人的にはあまり気になるものではありませんでした。ただ、創口幅とスリーブの大きさが合っていない状態で手術していることにも気付いたため、一度、オリジナルに戻して行ってみました。

オリジナルというのはメーカー指定の方法で、当院で使用している2.8mm幅の弧状ブレードに対して、太いほうの(青色着色)スリーブを使用します。しかし、当院では同じ幅に対して細い方の赤いスリーブを用いています。結果、当然のごとくリーク量は多くなっています。

ある日、奥目の患者さんの手術が続き、視認性に問題を感じたため、試みにオリジナルのスリーブを使ってみました。これにより、さすが前房は安定し、リーク量は減ったものの、視認性の改善は見られませんでした。まあ、症例によってはこんなこと、よくある話です。

オリジナルの太いスリーブでの手術終了時に創口の状態はやや崩れたというか、I/Aチップを抜いたとたんに前房がつぶれることに気が付きました。普段は、超音波操作、I/A操作、ビスコ洗い出しのあと、前房は自然に閉鎖しておりますので、創の内方弁を整えるだけで、眼圧を上げることや、ハイドレーションを行うことなく手術が終了できるのに、今回はハイドレーションが必要でした。

もともと、角膜切開で平らなケラトームを使っている時は、全症例にハイドレーションを行っていました。眼圧を上げ、創からのリークがないことを確認し、手術を終了したものです。リークがあれば10-0一糸というのがお決まりで、20例のうち1例くらいは縫合を必要としたものです。

しかし、弧状ブレードを使い、内方弁を整えると、自然に閉鎖しますので、わざわざハイドレーションを行ったり、眼圧を上げるということが必要ありません。眼圧をあげずに手術が終了できるということは、術当日のリークの予防となり、眼内炎の発生に大きくかかわる、重要事項と思います。

ハイドレーションにより眼圧を上げますと、その時は閉鎖したつもりでも、当日夕方や翌日にリークを認めることがあり、非常に危険です。

メーカー指定ではない、創に対してやや細めのスリーブを使うことにより、弧状ブレードならではの低眼圧創閉鎖が可能ということですので、やっぱり、普段通りの設定が個人的にはベターと思っております。もちろん、創口への機械的刺激が少ないせいか、デスメの皺が起こりにくいことは言うまでもありません。

ということで、相変わらず、2.8mm創に細いスリーブを使っています。弧状ブレードによる内方弁は、ぺたんと創口を閉じることができますが、眼圧を上げ過ぎると容易に翻転し、創につまってしまいます。これでも閉鎖はするのですが、あとで眼圧が下がってきたとき、どうなるのか不安が残ります。

発案者のI先生は、「このナイフは眼圧計にもなるのですよ!」とかおっしゃってました。要は、眼圧を一定以上あげると内方弁が翻転するので、眼圧の目安になるということで、大体20mmHgあたりがそうなる境だとのことです。もちろん、年齢との相関もあることでしょうが。

低眼圧、ノンハイドレーションによる創閉鎖のためには、創が変形しないことが大切で、基準よりもやや緩めのチップを用いるのがよいと思われます。

さて、話は変わりますが、先日、消費者庁から「LASIKの危険」についてプレスリリースがあり、問題となりました。このことに関して、「安心LASIKネットワーク」が声明文を発表しております

消費者庁のほうはこちらです。

一部の経営重視のクリニックによる行き過ぎた宣伝、価格偽装などに警鐘を鳴らす意味かと思いますが、世界的に広く認められた手術をネットアンケートで否定するかのような今回の報道にはちょっと驚きました。

ますます逆風が吹き荒れそうですが、これからもLASIKを守り、育てて行きたいと思っています。