広告規制の緩和 by A

暑い毎日が続きますが、いかがお過ごしですか。夏は手術の新患が少なくなりますので、ホッと一息といったところでしょうか。以前は夏休み期間、白内障が少ない代わりにLASIKがどっと来て大変でしたが、今やそんなこともなくなりました・・・。

昨年の暮れ、消費者庁がフライング気味に「LASIKの危険」について報道して以来、患者さんの意識の中に確実に根付いたLASIKに対する偏見は、日常臨床でいつも感じています。「こんな時はLASIKが良いですよ!」とか申し上げても、「危険、てことはないですかね!?」とかはぐらかされてしまいます。情けないことです。しかし、人の噂も何とやら、ちょっとずつではありますが、実需が回復してきています。

白内障手術に屈折矯正の流れが押し寄せている今日、屈折矯正手術の本家本元たるLASIKをはずして眼科臨床を行うことなど、ちょっと考えられないことです。しかし、導入に多大な投資が必要で、かつ保険診療ではなく自費ということですので、手術開業医はおろか一般の公的病院ではなおさらのこと、LASIKへの取り組みがおろそかになっています。ジャパンプロブレムの一つでしょうか。

今年になって、ウクライナ情勢が影響したからか、エキシマレーザーに使用する混合ガス、ヘリウムガスが大幅に値上がりしました。計算すると、1眼あたり1万円近くのガスを使用することになります。それでなくとももともとの器械が高額で、維持管理費も高いうえ、2種のレーザーそれぞれに使い捨て器具が必要と、金食い虫です。眼科手術で最も経営効率の悪い手術の一つではないでしょうか。

1眼あたりの利益率がごく低いということは、経営を成り立たせるために、症例数を過大にしなければならないということでもあります。そして、症例がちょっと少なくなったり、経費率が上昇したとたん、成り立たなくなり、閉業の憂き目を見てしまいます。現在、各地でLASIK専門クリニックが看板を架け替えているのにはそんな事情があります。

一般の眼科(保険診療も行っている眼科)でも2000年の開始当初、LASIKを導入した施設は全国に100件以上ありました。しかし、患者数が激減するにつれ、LASIKを止める施設が相次いでいます。では、何故、一般眼科におけるLASIKが激減したかといいますと、自由診療専門のクリニクが相次いでLASIKを開始し、宣伝攻勢をかけて患者を取り込んだからです。そして、その専門クリニックも徐々に手を引いて現在に至っています。

ここで本日のメインテーマたる「宣伝」ということを考えたいと思います。専門クリニックが「宣伝」により患者を取り込んだと書きましたが、では、一般眼科はなぜ宣伝しなかったのでしょう?患者が奪われるのをみすみす見逃したのには理由があります。医療法に規定されている「医療の広告規制」がその理由です。保険診療を中心とする一般の医療については、厳重に広告が規制されており、一定の事項しか広告してはならないとの取り決めがありました。

診療所名、診療科目、診療時間、など一定の項目のみ可能で、医療の内容について具体的なことは言ってはならないとなっていました。「レーザー治療」「日帰り手術」などの項目は広告不可ということでした。保険診療を行っているばかりに、自院の得意な分野や特長などを広告できませんので、どうしても露出度の高い専門クリニックの軍門に下っていたということです。

その結果、保険診療に組み込まれる前の自由診療、一部の先端的医療が、大学などの先端医療機関ではなく専門クリニックで行われるという、倒錯した状況が生まれてきました。この本末転倒とも言うべき状況は、広告規制が原因と言わざるを得ません。

そのことの反省にたってか、あるいは、今後の混合診療の解禁を見据えてか、多分その両方だと思いますが、昨年の9月、厚生労働省が大幅に広告規制を緩和しております。詳細はこちらを参照してください。

ここで画期的なのは、「医療の内容については広告してよい」との規定です。ここで、わざわざ具体例として「白内障の日帰り手術」と「レーザーによる屈折矯正手術」が挙げられています。眼科の実情を意識して書かれているのが明らかです。

医療内容については1)保険収載の医療行為、2)評価療養など、国の認める先端医療、3)上記の医療を自由診療で行う場合、4)保険収載、先端医療ではないが、薬事で認められた薬、器械を使用する自由診療、と分類されており、事実上全ての医療行為と言えるでしょう。まさにコペルニクス的転換です。

多焦点レンズやLASIKなど、元来の自由診療はもとより、保険収載の医療についても自由診療を広告して行ってくださいということは、保険診療の節約という本音が見え隠れしておりますが、実働労働人口が年々少なくなっている現実のなか、高度、先端医療を含めてすべて保険収載すべしとの原理主義はそのうち立ち行かなくなってゆくことは明白ですので、大きな変更もやむなしの面があります。

この規制緩和が吉と出るか凶と出るかは、ひとえに運用の仕方によると思います。過当競争による価格破壊を来すようなら、せっかくの高度医療が崩壊してしまいます。これはLASIKで経験したことです。失敗が二度と繰り返されることなく、患者さんにとって大切な高度、先端医療が順調に育ってゆくことを願っています。