白内障術後のヘルペス感染症 by B

皆さまお疲れ様です!新医院移転後の週は、一週間も引っ越しや準備で休んでいたので、予約の患者さんや、予約外でも新しい医院を見にきがてら受診する患者さんでバッタバタしておりましたが、ようやく平静を取り戻しつつある今日この頃です。

「新築移転後は患者数2割増し」と一般に言われるそうでございますが、実際にやってみると、この格言は当たっているな〜と感じます。とは言え、今は米国大統領に例えると、所謂、「ハネムーン期間」に相当しますので、褌を締めて、今後も診療に邁進したいと考えております。

少なくとも最初の週は、「新しい医院になったら、待ち時間が増えた」などのクレームが続出したようですので、色々問題点は山積みでございまする・・・。


先日、近隣の基幹病院に勤務するDrが、新医院でのオペを見学に来てくださいました。当日、20件程度の手術が入っていたのですが、

Bが、「疲れるし、座って見てくれてもいいよ」「オペに見飽きたら、手術場を出て、外の流れ等を見てくれたらいいよ」

と言っていたにも関わらず、立ったままで、Bのヘッポコオペを全例見学して下さいました。

その日は新医院に移転してから2回目の手術で、B&ナース軍団はまだまだ慣れていない状態でございまして、恥ずかしい所をたくさん見られてしまいましたが、「何かを学び取ってやろう!」という真剣な眼差しを見ると、開業前に色々な先生の手術見学に行っていたころの自分自身を思い出し、非常にBも勇気と刺激を頂きました。この場を借りて御礼を致します。有難うございました!

その日、IOL挿入の際に、IOLループがスタックして、ロケット発射や、強引にIOLを挿入した際にIOL光学部にクラックが入るなど、虎舞竜続出でございました!!Bはナースのセッティングが悪いと決めつけ、

「もうええ!!オイラがやる。ちょっと、見とけ!」

と言って、ナースからインジェクターを奪い取り、自分でセッティングしたところ、それでもループがスタックして激硬になってしまい面目丸つぶれでございました・・・。
(ToT)

結局、インジェクターの棒が曲がっており、そっちが悪かったようでございます・・・。お恥ずかしい限りでございました〜。

そこで発覚したのですが、当院ではたった3本のインジェクターしかなく、高速滅菌を繰り返して、今まで凌いできたとの事。cat15件オペをしたら、1日で5回転させていたということですし、そのインジェクター自身、何年も使用しております・・。恥ずかしながらナースに任せっきりで、把握していなかったBの責任ですねぇ。(><)

勿論の事、インジェクターの新調と追加購入を検討しておりますが、自分でセッティングして虎舞竜になったので、急速にインジェクター&カートリッジのワンピースアクリルレンズセッティングに嫌気がさして来ている今日この頃です。N社のSZ-1は使用しておりますが、それに加えて、H社が新たに出すプリセット方式が妙に眩しく感じております!!

さて、本題ですが、ここ2ヶ月で2例、白内障術後のヘルペス感染症(うち一例は確定診断ではなく、Bの思い込みかもしれません)を経験し、妙な共通点がありましたので、報告いたします。

ちなみに、Bのクリニックでは、白内障術後、ステロイド剤は基本投与しておりません。勿論、ヘルペス封じのためでございます。それなのに・・・という点が悔しい所でございます。

2例の共通点は、

・多焦点IOL使用(IOLはA社とA'社が各1例ずつにて痛み分けです)

・自分では「神経質ではない」と言われるものの、言動と行動は「かなりナーバス」

という点でございます。

そもそも、多焦点IOLを希望される時点で、通常のIOL患者層に比べると、ナーバスな方が多いというのは、施行された術者なら異論はないと思います。その中でも今回の2例は個性的なキャラの方でございました。

1例は、術翌日は遠方視力・近方視力ともに1.0以上出ておりましたが、妙に結膜が充血しており、眼圧が高かったです。とは言え、術翌日にそのようなことは、まぁありますので、特段気にせずに経過を見ておりました所、どんどん悪化してまいり、「ついにマルチ症例で術後眼内炎か!」と生きた心地がしませんでした・・・。されど幾ら見ても前房内炎症が軽微で、結膜充血はリンデロン点眼等で治まってまいりましたが、角膜内皮炎、及び角膜浮腫が悪化してまいりました。で、「ヘルペスによる角膜内皮炎」と考え、抗ヘルペス薬の内服を開始した次第でございます。それでも、なかなか治らず、次回受診時でも軽快していなければ大学に送ろうと思っていたところ、患者さんの方から「もうアンタのクリニックには行かん!」と突然連絡がきまして(要するに愛想を尽かされ・・・)、他院を受診された次第でございます。風の便りでは、現在では軽快しているとのことで、やれやれでございます。

Bの気になった点は、その患者さんが、「手術の日は、最初は良く見えていたのですが、途中から非常に見えづらくとても不安でした」と仰っておられました。おそらく、かなり核の固い症例だったので、術直後の方が角膜がクリアーで、術数時間経ってから、角膜浮腫や眼圧上昇が起こって来たのでしょう。それで凄くストレスを感じておられたようです。

もう1例は、手術前よりかなり説明に手こずった方で、当院で手術された友人の方が通常の単焦点IOLで「裸眼で遠くも近くも良く見えるようになった!」とのことで、「同じようにやってくれ」というオーダーでございました。

単焦点IOLなら、「ほとんどメガネなしで、細かい字を見るときだけメガネが必要になるかもしれませんが、どうでしょう?」と言っても、「いやいや、私は何も贅沢は言ってませんよ。裸眼で車の運転が出来て、本も裸眼で読めればそれで良いのです。それでお願いします。」という返答が返ってまいり、何やら話がかみ合わないムンテラを続けておりました・・。

「ご友人が遠くも近くも見えると言っても、それぞれの方の生活スタイルによって、見え方の満足度というものは変わります。理論上、単焦点IOLで遠くが良く見えるようにすれば、細かい字を読むときなどは眼鏡をかけたほうが楽に読めますし、それで良いですかね?」

と言っても、どうも反応が悪く、「それなら私は多焦点レンズにします」とのこと。ただ、その患者さんは、片眼に少しERMが張っており、多焦点はどうかな〜とも思ったので、

「軽い近視(-1〜-1.5D)+モノビジョンでやりましょうよ。それで、遠くの裸眼はやや物足りないかも知れませんが、日常生活はほぼ裸眼で可能かと思います。遠くをハッキリ見たい時や、細かい字を長時間読む際は、その時だけメガネをかければ良いんじゃないでしょうか」

と説明し、一旦はこれでまとまりかけたのですが、結局、多焦点IOLへの憧憬の念が断ち切れないようで、Bも、軽いERMだし、このくらいなら両眼で見たら気にならないだろうと判断し、多焦点IOL手術に相成ったわけでございます。

手術自体は問題なく施行し、術翌日で、遠方0.8、近方0.6とまずまずの数字。眼圧正常で、炎症も軽微と、正直ノープロブレムでございました。

ただ、その方は入院手術だったのですが、手術終了当日より

「多焦点レンズの見え方ってこの程度なんですか?」や

「いつになったらはっきり見えるようになりますか?」

などの質問を僕だけではなくスタッフにも連発しておられました・・・。当院は手術当日より眼帯なしの保護メガネなのですが、ナーバスな方は、当日の散瞳状態の見え方で「こんなはずではなかった!」と思われる方もおられます。勿論、「瞳が開いているので、その日は夜になったらある程度見やすくなりますが、それまでは見えにくいですよ〜」と説明はしているのですが・・・。ここのところは、眼帯なしのデメリットですねぇ。

で、翌日も、「こんなものなのですか??」と困った質問を連発されておられました。

術2日目に来られた時に、「少し角膜が白っぽくなってるところがあるぞ」思って、フルオで染めてみると、上皮内角膜浸潤を伴う樹枝状潰瘍で、明らかな上皮型ヘルペス発症でございます・・。
(ToT)

ヘルペスは、疲れやストレスで弱っている時に発症致しますので、Bの感触では、術後間もなくヘルペスを発症されたお二人は、やはり、手術が契機となって発症したと思います。

ナーバスな方に取って、手術自体がかなりのストレスであり、特に術後の見え方に多大なる期待を抱いておられる方にとって、現在の見え方が期待よりも悪かったとしたら、更なるストレスが襲ってくるのでしょうねぇ。Bの説明スタイルが、ナーバス系の方と相性が悪いのかも知れませんねぇ・・・。

このブログでチョコチョコぼやいておりますが、眼科手術医、言い替えると、感覚器外科医は、難しいですね〜。白内障手術適応の年齢に達したナーバスな方々に対して、今更性格を変えることは不可能でございます。いかにストレスを感じさせずに、良い結果を出すか・・・。そう考えると、ナーバスな方に対しては、術日はむしろ眼帯をして、当日の見え方を気づかせない方が良かったりするのかな・・などと考えております。

いやはや、まだまだ日々修行、日々反省の毎日でございます。本日は以上でございます。