IOLの強膜内固定 by A

世間はアべノミクス解散の話題でもちきりですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?このブログもとても長い間ごぶさたしています。といいますのも、本業が忙しいことや、家庭の事情などに加えて、業界内でほぼ面が割れていることがあり、気軽に書けない気がしているからです。

アベノミクス解散の裏事情はいろいろと報道されております。つまるところ、官邸vs財務省の戦いというところに集約されそうですね。大阪の橋下さんが出馬しなかったのも、対官僚ということでは同じ路線で、自公との対決は相手(財務省)を利するだけとの判断だったようです。

青山繁晴さんによれば、消費税アップに対する財務省の圧力はすごかったそうですね。もちろん、プライマリーバランスをゼロにあるいはプラスにするためには、消費税が20%は必要とのことですので、いずれ身を切る努力はしなければなりませんが、その前に財政の無駄をなくすのが先決ではないでしょうか。また、弱者保護のため、海外のように生活必需品の無税化が必須と思われます。

そんな簡単なことも決まりません。業界の綱引きに左右され、決断できないからです。生活必需品といえば、衣食住に決まっている訳で、最低限の衣類、食品、住居は非課税とすればよいだけです。マスコミが「新聞は非課税に」とか、笑うしかないですね。

巷の経済本でも最近は「いつ国債が破たんするか」といった、暗い論調ばかりが目立ちます。そういいつつもこれまで10数年、破綻せずにすんでおりますが、今後、永遠にというわけにはまいりません。身を切る努力をしなければ、いつか破綻することでしょう。

とはいえ、われわれの業界のうち、すくなくとも手術開業医は、今のところ順調なところが多いのではと推測されます。といいますのも、学会や医会の先生方のご努力のおかげで、手術点数がそこそこ守られているからです。今年の4月には、レーザーを含む多数の手術点数引き下げがありましたが、もっとも大切な白内障手術は守られました。初診、再診料の上げとほぼ相殺といったところでしょうか。

しかし、病院眼科における白内障手術が短期滞在3にマルメられました。この結果、今回はむしろ売上が大幅アップということになった模様ですが、今後の匙加減次第では、激震が走る可能性もおおいにあります。入院期間が4泊5日を基準とした点数を、1泊2日で算定している施設が多いからです。

タラレバの話はこのくらいにして、今回は、B先生からご指摘のあった、強膜内固定(IOL Scleral Fixation, IOLSF)についてちょっと書いてみたいと思います。

小生は昨年の春ごろからIOLSFを開始し、その後は一例も縫合固定を行なっておりません。月2〜3例のペースで行なっており、多焦点も3眼行ないました。

縫合固定を止めた理由としては、1)術中の通糸による出血、時に脈絡膜の大きな出血がみられること、2)長年の経過の後、縫合糸がはずれる症例があること、3)縫合糸が知らない間に露出し、感染に至った症例があったこと、があげられます。IOLSFによれば、これらのすべてが改善されると思います。

加えて、1)中心固定が良好で多焦点IOLにも応用可能なこと、2)手術のやり直しが容易なことも長所と思います。

欠点としては、1)手術操作に慣れが必要なこと、2)硝子体手術装置(出来れば25G)が必要なこと、3)IOLの選択に注意を要することなどがあげられます。

小生の方法は、この道では先達の静岡のO先生の方法を簡略化したものです。文献によりますと、IOLのループを引っこ抜いて、その場で強膜下にトンネルを掘る方法や、infusion portを斜めにさして、そこからループを抜き、そのままにしておく方法などがありますが、これらでは固定がやや不十分と思います。その点、O先生の方法(Y method)は完璧です。しかし、せっかく縫合固定を止めたのに、また(通糸しないとはいえ)縫合を多々使用するのは少しやりすぎの感がしなくもありません。

簡略法では、1mm長の半層切開を輪部と並行に2mmの距離に置き、その一端で硝子体腔に貫通させ、もう一端から強膜トンネルを作ります。トンネル作成には先の曲がったV−ランスを用います。硝子体腔から出したループは先の曲がった鉗子により、トンネル内に埋め込みます。

前房内では、硝子体鉗子を2種類用いて、双手法によりループを受け渡します。

切開は基本的に角膜切開で、3.2mmの弧状ブレードにより作ります。これは、使用するIOLに合わせた大きさです。IOL脱臼のある症例では、強角膜切開(6mm)を行なうこともあります。

IOLは3ピースが使用可能で、いろいろ試した結果、全長が長いこと、光学径が大きいこと、ループが操作しやすいこと、ループがしっかりと光学部についていることなどから、S製薬のNx-70がベストと思います。光学径が小さいとキャプチャーの原因になりますし、全長が短いとほとんどの症例で使用不可と考えられます。

術前にはW to Wを測定するのがよいでしょう。角膜径のことですが、そもそもIOLや水晶体が脱臼する症例では角膜径が大きいことが多いのです。W to Wが11.5mmとしますと、埋没位置から算定して、全長が15.5mmあることが望ましいわけで、大多数の3ピースレンズが使用不可ということになります。サイズ不適合により、術翌日、光学部がループからはずれた症例も経験いたしました。

IOLSFは、言ってみれば、虫歯の治療に被せを使用する従来の方法(IOL嚢内固定、縫合固定)に対する、歯根部インプラント治療のようなものでしょう。一度その良さが判ってしまうと、二度と縫合固定には戻れないと思います。

また、水晶体不全脱臼に対してCTRを使用するくらいなら、脱臼させて、あるいはICCEを行なって、IOLSFを行なうほうが、予後が良好と思われます。

海外ではiris fixationが復活しつつあるとの情報もありますが、硝子体手術に慣れた術者が白内障手術を行なうことが多い我が国では、今後ともますます普及してくるのではないでしょうか。