白内障手術のマルメ by A

ひさしぶりに投稿してみようと、当ブログにログインしましたが、なんと、IDとpwを忘れそうになっていました。なんとか思い出してログインに成功したものの、年々老化が進んでいるのを感じます。昇り龍のB先生とは違って、話題に事欠くようになってきたAですが、最近思っていることなどを書いてみます。

B先生にならって政局の話をしばし。アベノミックスが成功しつつあるとはいえ、まだまだ日本の経済状況はそれほど上向いては来ていません。と、思っていると、正月明けより株価ががたがたになってきました。これは中国や発展途上国の影響と言われています。ISが勃興してきて以来、石油価格が下落し、サウジが危なくなり、中国やオーストラリアにも波及してきました。なんと言っても、中国やインドの購買力が世界経済を支えていますので、日本にも影響が及んでいるのです。

消費税増税によりデフレが再現してきたとはよく言われることですが、庶民の購買力は確かに低下していると感じることが多いです。レーシックなどの自費診療が減って来ているのはもちろんですが、保険診療においても、高額の自己負担が払えないと訴える患者さんも続出しています。

それを補うべく民間の医療保険があるのですが、年々、給付内容がみすぼらしくなっているようです。反面、先進医療特約はまだ健在です。そのうちの大多数を占めるのが、われわれの多焦点IOLと言われていますので、いずれは給付見直しという事態も考えておかなくてはなりません。レーシックの二の舞です。

さて、本年度は保険点数の改定があります。薬価や材料費の値下げの反面、医師の技術料はやや上向きとのことで、ほっと一安心というところですが、どんな落とし穴が待ち受けているとも限りませんので、油断は禁物です。

前回の改定では、入院白内障手術のマルメという、びっくりするような変化がありましたのは、記憶に新しいところです。今回はこれがどうなってゆくのでしょうか。

一度の入院で片眼でも両眼でも同じ値段ということになったので、想像通り、基本、片眼のみの手術とする施設が大多数となったようです。ということは、両眼の白内障でも、最低2週間はあけて手術する必要があり、入院施設では、二度に渡って入退院を繰り返すという、まことに煩わしいことになっているのです。患者さんにとって、残念なことと言わざるをえませんし、医学の発展をも阻害する要因になっています。

先日当院を受診された中年の患者さんは、両眼ともー10D程度の高度近視の白内障でした。矯正視力にはやや差があるものの、両眼とも手術をして、適切な屈折に持ってゆかなければならないことは申すまでもありません。ところが、ある公的総合病院眼科にて、

「片一方の眼はあんまり白内障が進んでいませんから、今回は左眼だけの手術にしましょう」と言われました。手術眼の狙いを−10Dにしたいのか、あるいは、術後、コンタクト装用を勧めたいのか不明ですが、これほどの屈折異常を片眼手術とする神経を疑います。しかし、医師の肩を持つとすれば、入院手術マルメの影響で、仕方なく片眼手術を勧めているのかもしれません。

財政の影響か何か知りませんが、事実上の片眼手術推奨は、政策担当者様におかれまして、白内障手術が屈折手術でもあるという事実をご理解いただいていないことを示しています。といいますのも、屈折異常が強い時、片眼のみの手術のあとでは左右の屈折度数が大きく異なるという「不同視」になりますので、生活や視力の質が大きく低下してしまうからです。

もし−10Dの狙いとしたらどうなるか。不同視は免れるかもしれませんが、この患者さんは一生、たとえ認知症になったとしても、分厚いメガネを掛けないと生活できないことになります。多分、そんなメガネはいずれ掛けることができなくなりますから、QOLやQDAの低下は免れません。

よって、高齢の患者さんでは、今後の生活を考えたればこそ、正視〜軽度近視の適切な屈折を与えてあげなければならないのです。これは医学的にMUSTというべきですので、現行の入院白内障手術医療における政策は医学の進歩に逆行しているのです。

幸い、われわれ日帰り手術施設においては、そのようなマルメがありませんので、比較的自由に手術日を選ぶことができます。自由診療の多焦点レンズ移植では、基本、両眼同日手術としているくらいです。

さきほどの患者さんですが、「両眼とも手術をして、手元の読書距離に合わせると、室内ではほぼメガネをはずせますよ。」とご説明し、両眼手術の予約を取っていただきました。「メガネがはずせるなんて、夢見たいです!」と泣き出さんばかりの喜ばれようでした。

今回の改定で、白内障の片眼手術を推奨するような不親切な制度が改められることを願ってやみません。