ベンチュリーポンプ by A

このところの白内障超音波手術装置の新型を見ますと、ペリスタルティックに代わってベンチュリーポンプが花盛りです。B社の星野号は先代からベンチュリーだったから、その発展というのは理解できるとして、A'社のサイン号は唐突的にベンチュリーが出てきた感が否めません。

どちらも、最終的にはベンチュリーとペリスタルティックの両方を備え、症例に応じて使い分けるということのようですので、一体、どういう使い分けをするのかにも興味がそそられます。

最近の白内障手術装置では、ベンチュリーとはいいましても、(硝子体手術がメインであった)B社の先代、先々代のように、ガスで駆動するのではありません。器械式ポンプが内臓されています。手術中にカラカラと音を立てております。

器械式とは申せ、その駆動力、吸引力は大したものです。吸引圧500mmHgなどお手の物ですし、しかも瞬時にそれが達成されます。もちろん、実際の使用で超音波時に500にすることはありません。前房がつぶれるからです。500はIA用です。

白内障手術ではよほどのことがない限り使わない、硝子体切除カッターの駆動も実力があります。サイン号の場合、なんと、2500回転が可能といいますから、硝子体手術専用に使えそうな勢いです。もちろん、いろいろな点で、この器械をそのまま硝子体手術に転用はできません。

ベンチュリーが出てきた背景には、小切開手術があると思います。そもそも硝子体手術カッターは20Gで、吸引はベンチュリーでした。近年、白内障手術も19Gから20Gが一般となり、ベンチュリーにふさわしい径になってきたということでしょう。さらに細くなれば、ますますということに違いありません。

硝子体の分野では更に小口径化が進み、27Gが登場しています。ベンチュリーの駆動力を大幅にアップさせる必要に迫られています。この技術を使えば、白内障手術の20Gくらい訳ないということでしょう。

それでは、白内障手術において、ベンチュリーとペリスタはどう違うのでしょうか?サイン号は一台で、同じ超音波ハンドピースを用いて、両者を使い分けできます。機構の違いを吟味するには最もふさわしいツールです。

サイン号でベンチュリーポンプを使う場合、超音波時の吸引圧は130〜150mmHg程度です。もちろんチップは20G径であり、もし19Gを使うならば、更に吸引圧を下げないと前房が不安定になります。ほぼ、20Gあるいはそれより細い径専用といえます。

ということで、未だに19Gをメインに使っていらっしゃる術者は、サイン号でもペリスタルティックポンプを使うことになるでしょう。

20Gでペリスタルティックの場合、小生だと吸引圧は350mmHgくらいまであげます。それでも前房はほぼ安定しています。

不思議なことに、全く同じハンドピースであるにもかかわらず、しかも、吸引圧が低いにもかかわらず、ベンチュリーの時の方が超音波破砕力は上です。エメリーが高い、カチカチの症例では、ベンチュリーの威力が発揮されます。

これは多分、ポンプの特性によると思われます。硬い核では、チップ先の閉鎖が起こりにくく、ペリスタルティックだと吸引圧が上がりません。一方、ベンチュリーの場合、閉塞に関係なく吸引いたしますので、硬い核の場合の実際の吸引効果は高いことになります。

エメリーⅣ〜Ⅴで、角膜バーンを起こすこともあまりありません。というのも、超音波破砕吸引時に常にチップ内に水が流れていることによる、冷却効果があるからです。硬い核片がチップ〜チューブにつまるということも起こりません。

ただひとつ、難点はといえば、最高吸引圧を150mmHg以上上げられないことです(サイン号の場合。星野号はB先生ご報告の通りもっと上げられます)。吸引圧は核を砕く際のみではなく、チップで核を支えるという操作の際に重要です。硬い核を小さいチップ径で支えるには、かなり強い圧力が必要です。

硬い核をチップで保持し、永原式にチョップを行うという操作が、吸引圧を高くとれないベンチュリーだとやや難しくなります。

ということで、永原式ではなく、「掘って割る」をくりかえす、ギンベル式D&C法で行っている術者にとって、ベンチュリーポンプへの変更は良いことづくめという感じがいたします。