陰性異常光視症の治療 by A

前々回に話題にさせていただいた異常光視症(dysphotopsia)ですが、今月号のJRCSにSam Masketがタイムリーな論文を発表されていますので、今日はこの論文を中心に書いてみます(Pseudophakic negative dysphotopsia: Surgical management and new theory of etiology. JRCS 2011;37:1199-1207)。

前々回にTetsu先生が書かれていますように、異常光視症にはnegativeとpositiveがあり、前者は患者が「耳側に暗い半月状の影が見える」と訴えるものであるのに対し、後者は光を見た時に滲んだり、広がったりするいわゆるハロのことだそうです。後者は眼内レンズの素材やエッジの形と関連しているとされていますが、前者の原因は不明とのことでした。

Osherは耳側切開が原因であろうとの説を唱えましたが、上側切開でも起こるということで否定されました。今回の論文でMasketが試みた方法は3つで、まず、最初のIOL(多くはアルコンの一体型アクリルレンズ)をシリコン素材の別メーカーのものに交換するという方法です。きっちり同じin-the-bagに入れ直したとされます。しかし、この方法では患者の自覚は取れず、失敗でした。

このことから、陰性異常光視症はレンズの素材、型式に関係なく起こることが示唆されます。

次に、試みたのは、最初のIOLを残したまま、毛様溝にシリコンIOLを追加挿入する、ピギーバック法です。ちなみに最初のIOLはリストアやトーリックなどのアクリル一体型が5、クリスタレンズが1で、ピギーバックしたのはスターのAQが5、clariflexが1となっています。

合計6眼でしたが、そのすべてにおいて、患者の訴えは消失いたしました。

一部に、眼内レンズ挿入眼における後房深度の上昇が原因ではないかとの説がありますので、Masketはチン氏帯脆弱で後房が拡大した一例(CTR入り)において、眼内レンズを嚢ごと虹彩に縫い付けるということを試みましたが、異常光視症は治りませんでした。よって、ピギーバックによる改善は、単に後房が浅くなったことによるのではないことがわかります。

そこで、3番目の方法ですが、CCCで覆われた光学部のエッジをアウトに露出させるということが、3眼で行われました。そして、見事に、これらの3眼でも陰性異常光視症の症状が消失したとのことです。

以上の結果により、Masketの考えた陰性異常光視症の原因とは、嚢内固定により光学部の前面に付着したCCCのエッジが、IOLを通じて鼻側網膜に投影され、影となって認知されるというものです。この仮説は

1)陰性異常光視症はいろんな種類のIOLで報告されている
2)症状は縮瞳で増加し、散瞳で軽減する
3)患者の耳側の点光源により症状が刺激される
4)RK、全層角膜移植などの角膜手術を受けた眼では症状が出ない

という、従来からの経験とも矛盾しないとのことです。

ということで、陰性異常光視症の治療としては、ピギーバック法が有効です。また、一眼でこの症状を自覚した場合、もう片眼の手術では、あらかじめ発症を予防するべく、「reverse opitic capture」(光学部反転捕獲)、つまり、inにIOLを挿入したのち、光学部をCCCの外に出しておくということが有効とのことです。

dysphotopsiaは患者の訴えがすべてで、視野など、眼科学的諸検査にひっかかるものではありません。また、この論文で分かったように、完全嚢内固定の「非常にきれいな手術」であればこそ出てくるもので、そのため、「神経質な患者の訴え」として無視されがちなところですが、それにもかかわらず真摯に向き合い、解決策を得たMasket先生には正直、敬服いたします。